「分からないことを、そのままにしておくなんてダメだ」
そう思い込んで、いつも答えを急いでいませんか?
- 将来の不安に押しつぶされそう
- 職場で即答を求められるけどモヤモヤする
- 人間関係で白黒つけられず悩む
こんなときに参考になるのが、ネガティブ・ケイパビリティという考え方です。
これは「答えが出ない状態を受け止める力」のことで、実は現代を生き抜くためにとても大切なスキルなんです。
この記事では、ネガティブ・ケイパビリティの意味や心理学的背景、活用方法や注意点まで、初心者にもわかりやすく解説します。
ネガティブ・ケイパビリティとは?意味を簡単に解説

ネガティブ・ケイパビリティの基本的な意味とは
「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉、最近耳にする機会が増えていますよね。
これは直訳すると「否定的能力」や「負の能力」などと言われますが、実際にはちょっと違うニュアンスがあります。
簡単に言うと、
「わからないことを、わからないまま受け止められる力」
のことです。
例えば、こんな状況を思い浮かべてみてください。
- 仕事でトラブルが起きたけれど、すぐには解決策が浮かばない
- 将来が不安で仕方ないけど、どうしたらいいか分からない
- 人間関係の問題で答えが出せずモヤモヤする
多くの人は、こうした「わからない状況」に耐えられず、すぐ答えを出そうとしたり、不安を消そうと動きますよね。
でも、ネガティブ・ケイパビリティがある人は違います。
- 答えが出ない状況を無理に解決しようとせず
- そのままの状態を抱え続けることができる
そんな「不確実さに耐える力」こそが、ネガティブ・ケイパビリティなのです。
ジョン・キーツが提唱した原点とは
この概念を提唱したのは、イギリスの詩人ジョン・キーツ(John Keats)です。
彼が1817年に友人への手紙で使った言葉が、今も語り継がれています。
キーツの有名な言葉はこちらです:
“Negative Capability, that is, when a man is capable of being in uncertainties, Mysteries, doubts, without any irritable reaching after fact & reason.”
(ネガティブ・ケイパビリティとは、人が不確実さ、神秘、疑いの中にとどまり、いら立って事実や理由を求めない能力のことだ。)
要するに、キーツは
- 詩人には謎や曖昧さをそのまま受け止める力が大切だ
- すぐに答えや理由を求めると、創造性が失われてしまう
と考えたのです。
これは詩や芸術に限らず、現代の私たちの日常にも深く関わる考え方です。
現代で注目される理由
では、なぜ今ネガティブ・ケイパビリティが注目されているのでしょうか?
その理由は、現代社会が不確実性の時代だからです。
よく「VUCA(ブーカ)」という言葉を耳にしますが、
- Volatility(変動性)
- Uncertainty(不確実性)
- Complexity(複雑性)
- Ambiguity(曖昧性)
現代はまさに、こうした状況に満ちています。
例えば
- 仕事で正解が見えない課題が増えている
- 人間関係が多様化して一筋縄ではいかない
- 社会の変化が速く、先が見えない
こうした時代に、すぐ答えを出そうとすると逆に
- 思い込みで間違った判断をしたり
- 焦って視野が狭くなったり
するリスクがあります。
だからこそ、
- 「分からないことを、そのまま抱えて考え続ける」
- 「結論を急がない勇気」
が重要だと、多くの分野で言われているのです。
特に
- ビジネスのリーダーシップ
- 医療やカウンセリング
- 芸術・創作の分野
などで、ネガティブ・ケイパビリティの価値が再評価されています。
要するに、ネガティブ・ケイパビリティとは現代を生き抜くために欠かせない、
「不確実さを抱える力」
なのです。
ネガティブ・ケイパビリティを心理学的に理解する

不確実性耐性とは?心理学の視点から解説
ネガティブ・ケイパビリティを心理学の観点から考えると、まず重要になるのが「不確実性耐性」という考え方です。
不確実性耐性とは、
「物事がはっきりしない状態や答えが出ない状況に、どれだけ不安を感じずにいられるか」
という心の力を指します。
例えば、
- 未来のことが決まっていないと落ち着かない人
- 曖昧な状況に強いストレスを感じる人
は、不確実性耐性が低いと言えます。
一方、ネガティブ・ケイパビリティが高い人は
- 「分からないことはあって当然」と受け止め
- 結論を急がず、その状況に耐えられる
という特徴があります。
心理学の研究でも、
- 不確実性耐性が高い人ほど、ストレス耐性が高く
- 柔軟に問題解決ができる
とされており、現代社会ではますます重要視されています。
認知的複雑性やメタ認知との関係
ネガティブ・ケイパビリティは、心理学でいう「認知的複雑性」とも深い関係があります。
認知的複雑性とは、
「物事を多面的に捉え、白黒ではなくグレーも受け入れられる思考力」
のことです。
例えば、
- 「この人は良い人か悪い人か」と単純に決めつけるのではなく、
- 「良い面もあるけど、欠点もある」と考えられる
こうした柔軟な思考が、認知的複雑性です。
ネガティブ・ケイパビリティが高い人は、この認知的複雑性が高く
- 矛盾する情報を同時に抱えられる
- 確定できない状態に耐えられる
という特徴があります。
さらに、ここに関わるのがメタ認知という力です。
メタ認知とは、
「自分が今どんな気持ちで、どんな考えをしているかを客観的に把握する力」
のこと。
たとえば、
- 「今の自分は不安で答えを急ぎたくなっている」と気づける
- 「でも一旦立ち止まろう」と自分を制御できる
こうしたメタ認知が高い人ほど、ネガティブ・ケイパビリティを発揮しやすいと言われています。

感情調整・レジリエンスとのつながり
ネガティブ・ケイパビリティには、感情面でも大事なポイントがあります。
それが「感情調整」と「レジリエンス」です。
まず感情調整とは、
「不安やイライラなどのネガティブ感情を、自分でうまくコントロールする力」
のことです。
例えば、
- 「このままじゃまずい!」と焦りが出てきたときに
- 一度深呼吸して落ち着き、状況を整理する
こうしたスキルは、ネガティブ・ケイパビリティの土台になります。
さらに、レジリエンスも大きく関わっています。
レジリエンスとは、
「逆境やストレスから立ち直る力」
です。
ネガティブ・ケイパビリティを持つ人は、
- すぐに答えが出なくても
- 「いずれ道が見えてくる」と信じて
- 混沌に耐え続けられる
という意味で、とてもレジリエンスが高いのです。
まとめると、心理学的にネガティブ・ケイパビリティとは
「不確実性に耐え、感情を調整し、柔軟に物事を捉えられる力」
と言えるでしょう。
ネガティブ・ケイパビリティの活用例|ビジネス・医療・創作分野

ビジネスにおけるリーダーシップとネガティブ・ケイパビリティ
現代のビジネス環境は、予測できないことだらけですよね。
市場の変化、顧客ニーズの多様化、突然のトラブル…。
こうした中で、ビジネスの世界でもネガティブ・ケイパビリティが注目されています。
特にリーダーシップにおいて重要視されているのは、
「答えがすぐ出ない状況に耐え、決断を焦らないこと」
です。
例えば:
- 新規事業の方向性が定まらないとき
- トラブルが発生し、原因がまだ分からないとき
- 社員の意見が割れて、すぐ結論を出せないとき
こうした場面でリーダーが
- 「分からないことは分からないままで保留する」
- 「急いで白黒をつけない」
- 「メンバーの多様な意見を聴き続ける」
ことが、結果的に良い判断につながるのです。
逆に、
- 焦って即決すると失敗する
- 誰か一人の意見だけを優先してしまう
といったリスクが高まります。
今の時代のリーダーは、「分からないまま耐えられる力」を持つことが求められているのです。
医療・カウンセリングの現場での重要性
医療やカウンセリングの現場でも、ネガティブ・ケイパビリティは非常に大切です。
例えば、
- 患者さんが苦しんでいるのに、原因がすぐには特定できない
- 心の悩みを話す人が、話している本人も自分の気持ちをうまく言語化できない
こうした状況で、医師やカウンセラーが
「答えが出ない状況を一緒に耐えられる」
ことが、患者さんにとって大きな支えになります。
精神科医やカウンセラーの間では、
- 「ネガティブ・ケイパビリティが治療者の資質だ」
と言われるほどです。
もしすぐに
- 「こうすればいいですよ」
- 「それは○○が原因です」
と答えを出しすぎると、
- 患者さんが置き去りになる
- 表面的な解決になってしまう
こともあります。
だからこそ、
- 「分からないことを分からないまま共有する」
- 「すぐに答えを急がず、一緒に考え続ける」
この姿勢が、医療やカウンセリングには欠かせないのです。
芸術・創作でのネガティブ・ケイパビリティの価値
芸術や創作の世界でも、ネガティブ・ケイパビリティは非常に大切な概念です。
詩人ジョン・キーツも、これを詩作の本質と考えていました。
創作の現場では
- 「自分でもなぜこう表現したいのか分からない」
- 「作品の意味をうまく説明できない」
- 「曖昧さを残したい」
という感覚がよくありますよね。
ここで、
「はっきり説明できないとダメだ」
と思ってしまうと、
- 自由な発想が出なくなる
- 作品が浅くなる
という危険があります。
ネガティブ・ケイパビリティを発揮できるクリエイターは
- 謎や曖昧さを抱えたまま表現する
- 理屈ではなく感覚や直感を大事にする
ことができます。
結果的に、作品には
- 「深み」
- 「余韻」
- 「多義的な解釈」
が生まれ、観る人や読む人に強く響くのです。
つまり、芸術や創作の分野では
「分からないものを分からないままに表現する勇気」
こそが、ネガティブ・ケイパビリティなのです。
このように、ネガティブ・ケイパビリティは
- ビジネス
- 医療・カウンセリング
- 芸術・創作
という全く異なる分野で、それぞれ大きな価値を発揮しています。
ネガティブ・ケイパビリティのデメリットや批判とは?

結論を出さないことのリスク
ネガティブ・ケイパビリティはとても大切な力ですが、良い面ばかりではありません。
よく指摘されるのが、「結論を出さないことがリスクになる」という点です。
例えば、
- 会議で「まだ結論を出すのは早い」と保留ばかりしてしまう
- いつまでも方向性が定まらず、メンバーが不安になる
- チャンスを逃してしまう
など、行動の遅れが大きな問題になることがあります。
特にビジネスの世界では、
「スピードが命」
という場面も多いため、
- 「分からない」と抱え続けるだけでは、組織が前に進めない
- リーダーとして信頼を失う
というリスクがあるのです。
つまり、ネガティブ・ケイパビリティは大切だけれど
- 「結論を先延ばしにするだけ」になってはいけない
という点が大きな課題なのです。
優柔不断や問題先送りとの違い
もう一つ誤解されやすいのが、
「ネガティブ・ケイパビリティ=優柔不断」
というイメージです。
確かに「答えを急がない」という点では似ているように思えますよね。
しかし、両者は大きく違います。
ネガティブ・ケイパビリティ | 優柔不断・先送り |
---|---|
答えが出ないことを意識的に抱える | 決断を避け続けるだけ |
状況を分析しながら、保留する | 考えることを放棄する |
より良い解決策を探り続ける | 何もしないまま時間だけ経過する |
つまり、ネガティブ・ケイパビリティは
- 「決断しない」 のではなく
- 「今は決断すべき時でない」と判断する
という能動的な選択です。
一方、優柔不断や問題先送りは
- 考えることを避けているだけ
- 不安から逃げているだけ
であり、根本的に意味が違います。
バランスの取り方|活かすための注意点
では、ネガティブ・ケイパビリティを活かすには、どんなバランスが大事なのでしょうか?
ポイントは、
「保留するのは一時的」
という意識を持つことです。
- 保留しつつも、状況を観察し続ける
- 考えるための期限を設ける
- 他者の意見を取り入れて視野を広げる
- 行動に移すタイミングを見極める
など、動かない時間にも意味を持たせることが大切です。
また、
- 「自分が不安だから保留したい」のか
- 「まだ情報が足りないから保留するべきなのか」
を見極めることも非常に重要です。
まとめると、ネガティブ・ケイパビリティは
- 不確実さを抱える勇気
- でも、行動を放棄しない覚悟
この両方が揃って初めて、力を発揮します。
ネガティブ・ケイパビリティは現代に必要な能力ですが、
「行動しない言い訳」にしないことが最大のポイント
と言えるでしょう。
ネガティブ・ケイパビリティをもっと知りたい人へ

関連書籍・おすすめの本
もし「もっと深く知りたい!」と思った方におすすめなのが、関連書籍のチェックです。
ネガティブ・ケイパビリティに関する本は、日本語でも良書が出ています。
代表的なのがこちら:
- 『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』 帚木蓬生(著)
小説家であり精神科医でもある帚木蓬生さんが書いた一冊です。
医療現場での体験をもとに、ネガティブ・ケイパビリティがなぜ必要かをわかりやすく解説しています。
「専門書はちょっと苦手」という人にも非常に読みやすい内容です。
関連する心理学用語や概念もチェック
ネガティブ・ケイパビリティを学ぶと、周辺の心理学用語にも興味が湧く人が多いです。
ここでは、関連するキーワードをいくつか紹介します。
- 不確実性耐性(Uncertainty Tolerance)
物事がはっきりしない状況に耐えられるかどうかを示す概念です。
ネガティブ・ケイパビリティとほぼ同義の部分も多いです。 - 認知的複雑性(Cognitive Complexity)
一つの物事を多面的に捉えられる能力。
白黒思考から脱し、グレーを受け入れられる人はネガティブ・ケイパビリティが高い傾向にあります。 - メタ認知(Metacognition)
自分の考えや感情を客観的に捉えられる力。
ネガティブ・ケイパビリティを発揮するには、自分が「不安になっている」と気づけることが大切です。 - レジリエンス(Resilience)
逆境やストレスから立ち直る力。
不確実な状況に耐えられることが、結果的にレジリエンスを高めます。
これらの用語を知ることで、
「ネガティブ・ケイパビリティって、ただ我慢するだけじゃないんだ」
ということがよく分かるはずです。
気になる言葉があったら、ぜひ調べてみてくださいね!
ネガティブ・ケイパビリティは単なる一つの言葉ではなく、さまざまな心理学の概念や社会の課題とつながっています。
「もっと知りたい」
と思った方は、ぜひ本や他の概念にも触れてみてください。
ネガティブ・ケイパビリティとは?まとめと活かし方のヒント

ネガティブ・ケイパビリティの本質を一言で言うと
ここまで読んでくださったあなたは、もうお分かりかもしれません。
ネガティブ・ケイパビリティの本質を一言で表すなら:
「不確実さを抱える勇気」
です。
- 答えが出ないこと
- 先が見えないこと
- すぐには整理できないモヤモヤ
こうした状況を「悪いもの」と決めつけずに、
「今は分からないままでいていい」
と思える心の余裕。
これこそが、ネガティブ・ケイパビリティの真髄です。
日常生活や仕事にどう活かせるか
ネガティブ・ケイパビリティは、決して詩人や専門家だけのものではありません。
私たちの日常生活や仕事にも、活かせる場面がたくさんあります。
例えば:
- 人間関係でモヤモヤしたとき
→ すぐに答えを出そうとせず、少し距離を置いて考える - 仕事で方向性に迷ったとき
→ 「今は決めない」という選択肢を持つ - 不安で心がいっぱいになったとき
→ 「分からなくても大丈夫」と自分に言い聞かせる
簡単に実践するコツは、
- 「分からない」と口に出して言う
- 深呼吸して5秒だけ考える時間を作る
- 「今すぐ決めなくていい」と紙に書いてみる
こうした小さな行動だけでも、
「すぐに答えを出さなきゃ!」
というプレッシャーから少し解放されるはずです。
こんな人におすすめしたいネガティブ・ケイパビリティ
ネガティブ・ケイパビリティは特に、次のような方におすすめです:
- 完璧主義で悩みがちな人
→ 「すべて白黒つけなきゃ」と思いすぎる人ほど、グレーを許す練習が大切。 - すぐに結論を出したくなる人
→ ビジネスや対人関係で、急ぎすぎると誤った判断をしやすいです。 - 人の顔色を伺ってしまう人
→ 自分の答えが出ないうちは、あえて保留する勇気も必要。 - 創作や表現の分野に関わる人
→ 理屈で説明しきれないものを大切にする感性が、作品を深くします。
ネガティブ・ケイパビリティは、
「弱さ」ではなく、「強さ」
「逃げ」ではなく、「勇気」
なのだということを、ぜひ覚えておいてください。