「頭では分かっているのに、なぜか決断できない」
そんな経験はありませんか?
- 頭では分かっているのに決断できない
- 今を変えたいのに、現状維持を選んでしまう
- 失敗や後悔を想像して、一歩が踏み出せない
これは多くの場合、損失回避の法則――「人は得よりも損を強く恐れる心理」が影響しています。
この記事では、損失回避の法則とは何かを、行動経済学の基本理論であるプロスペクト理論(人が損得をどう感じて判断するかを説明する理論)とあわせて、初心者向けにわかりやすく解説します。
ぜひ最後まで読んでくださいね。
損失回避の法則とは何か?|基本的な意味と特徴

損失回避の法則とは、
人は「得をすること」よりも「損をしないこと」を強く重視して判断するという、人間の心理的な傾向を表した考え方です。
同じ金額であっても、
- お金を得る喜び
- お金を失う痛み
多くの場合、得をする喜びよりも、損をする痛みのほうが強く感じられるのです。
損失回避の法則のシンプルな定義
まずは、できるだけシンプルに定義するとこうなります。
損失回避の法則
人は、同じ価値であれば「得をすること」よりも「損をすること」を避けようとする傾向が強い。
たとえば、
- 1万円もらえるチャンス
- 1万円失うかもしれないリスク
この2つを比べたとき、
多くの人は失う可能性がある状況を強く避けようとします。
これは、
人間の脳に備わった自然な判断のクセだと考えられています。
なぜ「得をする喜び」より「損をする痛み」が強いのか
では、なぜ人はここまで損に敏感なのでしょうか。
理由を一言で言うと、
生き残るための本能に近いからです。
人間は長い進化の過程で、
- 少し得を逃すことよりも
- 命や生活を脅かす「損失」を避けること
を優先してきました。
そのため脳は、
- 「プラスになるか?」よりも
- 「マイナスにならないか?」
を先にチェックする仕組みになっています。
具体的には、
- 利益:ゆるやかに感情が動く
- 損失:強く、鋭く感情が動く
という非対称な反応が起こります。
この差が、
「損したくない」という気持ちを過剰に強くする正体です。
日常の判断に潜む損失回避の具体例
損失回避の法則は、特別な場面だけで起きるものではありません。
私たちの日常の判断のあちこちに潜んでいます。
たとえば、こんな場面です。
- 今の仕事に不満はあるが
「辞めて失敗したら怖い」と動けない - 使っていない物でも
「手放すのはもったいない」と感じる - もう合わない方法だと分かっていても
「ここまで続けた努力を無駄にしたくない」と続けてしまう
これらはすべて、
「今あるものを失うかもしれない」という不安
が判断を強く左右している状態です。
重要なのは、
こうした判断が必ずしも合理的とは限らないという点です。
頭では「変えたほうがよさそう」と分かっていても、
感情のブレーキがかかってしまう。
それが、損失回避の法則がもたらす特徴です。
損失回避の法則が生まれた背景|行動経済学の視点

損失回避の法則は、
「人はなぜこんな判断をしてしまうのか?」という現実の行動への疑問から生まれました。
ここでは、
従来の経済学 → その限界 → 行動経済学の登場
という流れで整理します。
従来の経済学が前提としていた「合理的な人間像」
もともとの経済学では、人は次のような存在だと考えられていました。
- 常に冷静に判断できる
- 感情に左右されない
- 得と損を正確に計算できる
- 期待値が高い選択を選ぶ
この前提を 「合理的経済人」 と呼びます。
たとえば、
- 成功確率50%で+10万円
- 成功確率100%で+4万円
この場合、
期待値が高い前者を選ぶのが「合理的」だ、という考え方です。
しかし、現実の人間はどうでしょうか。
現実の人間行動とのズレが問題になった理由
実際の人間の行動を観察すると、
この「合理的経済人」の前提は、あまりにも現実とかけ離れていました。
現実には、
- 得をするより、損を避けようとする
- 数字より感情で判断する
- 不確実な選択を極端に嫌う
- 同じ条件でも、言い方次第で判断が変わる
といった行動が、一貫して繰り返し観察されたのです。
たとえば、
- 「90%成功します」と言われると安心する
- 「10%失敗します」と言われると不安になる
事実は同じなのに、判断は変わります。
このような現象を、
「たまたまの例外」ではなく
人間の共通した判断パターンとして説明する必要が出てきました。
ここで重要になったのが、
心理学の知見です。
心理学と経済学が結びついた行動経済学の登場
こうした背景から誕生したのが、行動経済学です。
行動経済学とは、
経済学に心理学の視点を取り入れ、
実際の人間の行動をより現実的に説明しようとする学問
です。
行動経済学では、
- 人は非合理的な判断をする
- しかし、その非合理性には一定の法則性がある
と考えます。
そして、その代表例として注目されたのが
損失回避の法則でした。
つまり損失回避は、
- 人間の判断構造そのものから自然に生まれるもの
として位置づけられたのです。
このような「損を避けたい心理」を体系的に説明したのが、
次に解説するプロスペクト理論です。
プロスペクト理論とは?|損失回避を説明する基礎理論

プロスペクト理論は、
先ほど説明した「損失回避の法則」を理論として体系化したものです。
ここでは、
プロスペクト理論がどんな考え方なのかを、初心者向けに整理します。
プロスペクト理論の基本的な考え方
プロスペクト理論を一言で表すと、
人は、結果の「絶対的な価値」ではなく、
「どう変化したか」で判断する
という理論です。
従来の経済学では、
- 最終的にいくら持っているか
- 合計で得か損か
が重要だとされていました。
一方、プロスペクト理論では、
- 今の状態からプラスかマイナスか
- どれくらい変化したと感じるか
が判断の基準になります。
つまり人は、
「結果」ではなく「変化の感じ方」で意思決定している、
という視点です。
「参照点」という考え方が判断を左右する
この「変化」を考えるうえで重要なのが、
参照点(さんしょうてん)という考え方です。
参照点とは、
- 今の自分の状況
- 当たり前だと思っている水準
- 期待している基準ライン
のことを指します。
たとえば、
- 年収400万円が当たり前の人
- 年収600万円が当たり前の人
この2人にとって、
同じ500万円という数字でも感じ方は全く違います。
- 前者:増えた(得をした)
- 後者:減った(損をした)
このように、
同じ結果でも、参照点が違えば評価が逆になる。
これがプロスペクト理論の重要なポイントです。
利益と損失で判断基準が変わる理由
プロスペクト理論では、人の判断には次の特徴があるとされます。
- 利益の場面
→ 確実性を重視し、リスクを避けやすい - 損失の場面
→ 損を取り戻すために、リスクを取りやすい
たとえば、
- 確実に5万円もらえる
- 50%で10万円もらえる
この場合、多くの人は確実な5万円を選びます。
しかし、
- 確実に5万円失う
- 50%で10万円失う
となると、
「一か八か」に賭けてしまう人が増えます。
これは、
損失を確定させたくない
という心理が強く働くためです。
ここで重要なのが、
この行動が合理的かどうかとは別に、非常に一貫して起こるという点です。
そして、この一貫した傾向の中心にあるのが、
損失回避の法則なのです。
損失回避の法則とプロスペクト理論の関係

ここまで読んで、
「損失回避の法則とプロスペクト理論って、結局どう違うの?」
と感じた人もいるかもしれません。
ここでは、両者の関係をスッキリ整理します。
プロスペクト理論の中での損失回避の位置づけ
結論から言うと、
- プロスペクト理論:人の意思決定全体を説明する「枠組み(モデル)」
- 損失回避の法則:その中でも特に重要な「中核となる心理法則」
という関係です。
プロスペクト理論には、
- 参照点
→ どこを基準に「得・損」を感じるか - 価値の感じ方の歪み
→ 利益はゆるやか、損失は急激に感じる - 確率の感じ方の歪み
→ 小さい確率を過大評価する
といった要素がありますが、
その中でも「損失は強く感じられる」という性質が、
多くの行動の出発点になっています。
なぜ損失回避がプロスペクト理論の中核なのか
なぜ損失回避が、ここまで重要視されるのでしょうか。
理由はシンプルで、
人の行動を最も強く動かす要因だからです。
人は、
- 利益があるから動く
よりも - 損を避けるために動く/動かない
という判断をしやすい。
そのため、
- 現状維持
- 先延ばし
- 無難な選択
- 挑戦の回避
といった行動が、非常に高い確率で説明できます。
プロスペクト理論の中でも、
「なぜ人は合理的でない選択をするのか?」
という問いに、最も分かりやすく答えてくれるのが
損失回避の法則なのです。
損失回避の法則が引き起こす代表的な行動パターン

損失回避の法則は、
私たちの意思決定にかなり具体的な行動パターンとして表れます。
ここでは、
「なぜそう行動してしまうのか?」が分かるように、
代表的な3つのパターンを整理します。
①現状維持を選び続けてしまう心理
損失回避が強く働くと、人は変えない選択を取りやすくなります。
理由はシンプルで、
変えること = 何かを失うかもしれない
と無意識に感じるからです。
たとえば、
- 今の仕事に不満はあるが辞められない
- 今のやり方に限界を感じているが変えられない
- 新しい選択肢があっても「今のままでいい」と思ってしまう
これは、
- 今の状態がベストだと思っている
のではなく - 今あるものを失う不安のほうが強い
という状態です。
現状維持は「楽だから」ではなく、
損失を避けるための防衛反応として選ばれていることが多いのです。
②決断を先延ばしにしてしまう理由
損失回避は、
「決めない」という行動も引き起こします。
決断すると、
- 何かを選ぶ
→ 同時に、他の選択肢を捨てる
という構造が生まれます。
つまり、決断とは
小さな損失を確定させる行為でもあります。
そのため、
- 失敗したらどうしよう
- 間違った選択だったらどうしよう
と考え始めると、
決めないほうが安全だと感じてしまう。
結果として、
- 情報収集だけが続く
- 準備ばかりして行動しない
- 「もう少し様子を見る」が増える
という状態になります。
これは、
損失を確定させたくない心理の表れです。
③損を確定させたくなくて動けなくなる状態
損失回避が最も強く出るのが、
「すでに損をしていると感じている場面」です。
たとえば、
- うまくいっていない仕事
- 成果が出ない方法
- 合わない人間関係
頭では「やめたほうがいい」と分かっていても、
- ここまで費やした時間
- 努力やお金
- 我慢してきた経験
を無駄にしたくないと感じてしまう。
このとき人は、
今やめる = 損を確定させる
と感じるため、
動けなくなります。
結果として、
- 損が広がっていく
- 消耗が続く
- 余計に抜け出しづらくなる
という悪循環に入りやすい。
これもまた、
損失回避が合理性より感情を優先させた結果です。
損失回避の法則とよく混同される心理効果

ここでは、損失回避の法則と混同されやすい3つの心理効果を整理し、
何が同じで、何が違うのかを分かりやすく説明します。
①現状維持バイアスとの違いと共通点
現状維持バイアスとは、
「変えることを避け、今の状態を保とうとする傾向」のことです。
一見すると損失回避と同じに見えますが、
関係性は次のようになります。
- 損失回避の法則
→ 損を避けたいという感情の根本原因 - 現状維持バイアス
→ その結果として現れる行動の傾向
つまり、
損失回避(原因) → 現状維持バイアス(結果)
という関係です。
「変えないほうが楽だから」ではなく、
変えることで失うかもしれない不安が、
現状維持を選ばせているケースが非常に多いのです。

②サンクコスト効果(埋没費用)との関係
サンクコスト効果とは、
すでに支払ったお金・時間・労力を
無駄にしたくないために、合理的でない選択を続けてしまう心理
のことです。
これも損失回避と深く関係しています。
たとえば、
- 成果が出ていない方法
- 合わない仕事や人間関係
をやめられない理由は、
- 「続けたほうが得だから」ではなく
- 「ここまでの努力を損にしたくない」
という感情です。
ここでも本質は同じで、
損失を確定させたくない
という心理が判断を縛っています。
サンクコスト効果は、
過去の損失に対する損失回避と考えると理解しやすいでしょう。
③リスク回避との違いを整理する
最後に、よく混同されるのがリスク回避です。
- リスク回避
→ 結果がブレる(分布する)ことへの嫌悪 - 損失回避
→ マイナスを確定させることへの強い拒否反応
この2つは似ていますが、同じではありません。
リスク回避のポイントはここ👇
- 「損するかどうか」ではなく
- 「結果がブレる(分布する)こと」「予測できないこと」
に反応している。
具体例
- A:確実に −100円
- B:50%で −200円、50%で 0円
期待値は同じ(−100円)。
- リスク回避が強い人
→ Aを選ぶ
(結果が読めるほうがマシ) - 損失回避が強い人
→ Bを選ぶことがある
(0円で済む可能性がある=損を確定させたくない)
ここで起きているのは、
- リスク回避:
「ブレが嫌」 - 損失回避:
「損を確定させるのが嫌」
という反応点の違いです。
仕事・お金・人生の選択にどう影響するのか

損失回避の法則は、
理論として知っているだけでは意味がありません。
本当に重要なのは、
私たちの現実の選択にどう影響しているかです。
ここでは、特に影響が出やすい
「仕事・お金・人生の選択」という3つの場面で整理します。
①転職やキャリア選択で損失回避が働く場面
転職やキャリアの場面では、
損失回避の法則が非常に強く働きます。
たとえば、
- 今の仕事に不満はある
- でも辞めたあとが不安
- 収入が下がるかもしれない
- 失敗して後悔するかもしれない
このとき頭の中では、
「今の不満」より
「辞めたことで失うかもしれないもの」
に意識が集中しています。
重要なのは、
それが現実の損失かどうかはまだ分からないという点です。
それでも人は、
- 想像上の損失
- まだ起きていない最悪のケース
を強く感じ、
行動を止めてしまいます。
これは慎重さではなく、
損失回避によるブレーキです。
②投資・お金の判断で起きやすい失敗例
お金の判断は、
損失回避が最も分かりやすく表れる分野です。
代表的なのは次のような行動です。
- 含み損のある投資を手放せない
- 小さな利益はすぐ確定してしまう
これらはすべて、
損を確定させたくない
という心理から起きています。
合理的に考えれば、
- これからどうなるか
- 今後の期待値はどうか
で判断すべきですが、
感情は過去の損失に強く引っ張られます。
その結果、
- 判断が遅れる
- 傷口が広がる
- 冷静さを失う
といった失敗につながりやすくなります。
③副業や新しい挑戦をためらう心理構造
副業や新しい挑戦でも、
損失回避は強く働きます。
よくあるのが、
- お金を失うかもしれない
- 時間を無駄にするかもしれない
- 失敗して恥をかくかもしれない
という不安です。
このとき多くの人は、
- 失うかもしれないもの
ばかりを見ていて、 - 得られるかもしれないもの
をほとんど見ていません。
しかし実際には、
- 何もしないことで失う時間
- 経験が積めないこと
- 将来の選択肢が増えないこと
といった見えにくい損失も存在します。
損失回避の法則は、
この「見えない損失」を
見えなくしてしまうのが厄介な点です。
損失回避の法則に振り回されないための考え方

ここまでで、
損失回避の法則がどれほど強く判断に影響しているかが見えてきました。
ここでは、
振り回されにくくなる“見方”を整理します。
「失うもの」だけを見ていることに気づく
損失回避が強く働いているとき、
人の視野は極端に狭くなっています。
具体的には、
- 失うお金
- 失う時間
- 失う評価
- 失う安定
といったマイナス要素だけを見ています。
まず大切なのは、
「今、自分は“失うもの”だけを見ていないか?」
と気づくことです。
この時点では、
無理に前向きになる必要はありません。
ただ、
- 視点が片側に寄っている
という事実を言語化するだけでも、
判断は少し落ち着きます。
やらなかった場合の損失にも目を向ける
損失回避の落とし穴は、
「行動しないことの損失」を見えなくする点です。
たとえば、
- 挑戦しないことで失う経験
- 決断しないことで失う時間
- 動かないことで狭まる選択肢
これらは数字になりにくく、
感情も動きにくいため、
無意識のうちに無視されがちです。
そこで有効なのが、
- 行動した場合の損失
- 行動しなかった場合の損失
を並べて考えることです。
どちらも損失があると分かると、
「損を避ける」から
「どちらの損を選ぶか」という視点に変わります。
感情と判断を切り分けて考える視点
最後に重要なのが、
感情と判断を分けて扱うという考え方です。
損失回避が働いているとき、
- 不安
- 恐怖
- 失敗への想像
といった感情が、
判断そのものを支配しています。
ここで意識したいのは、
感情があること自体は正常
しかし、その感情=判断の正しさではない
という点です。
たとえば、
- 「怖い」と感じている
=「本当に危険」
とは限りません。
感情は
脳の警報装置のようなものなので、
「鳴っているな」と認識したうえで、
別枠で判断を考える。
それだけで、
損失回避に振り回されにくくなります。
まとめ|損失回避の法則を理解すると行動の見え方が変わる

ここまで、損失回避の法則とプロスペクト理論について、
できるだけ噛み砕いて解説してきました。
最後に、この記事のポイントを整理します。
損失回避は人間の自然な特性
人は本能的に、
- 危険を避ける
- 失うものを守る
ようにできています。
その結果として、
- 行動が止まる
- 決断を先延ばしにする
- 現状維持を選ぶ
といった行動が起こります。
これは、
人間の脳の設計そのものだと考えたほうがいいでしょう。

