「やらなきゃいけないのに、つい先延ばししてしまう…」そんな経験はありませんか?
勉強や仕事、ダイエットや貯金など、頭では分かっているのに行動できない。このモヤモヤに悩んでいる人は多いはずです。
実はその原因の一つには、双曲割引(未来の利益よりも目の前の快楽を大きく見積もってしまう心のクセ)があります。これは人にとってごく普通の心理反応ですが、放っておくと先延ばしや無駄遣いにつながりやすいのです。さらに、意志力の消耗や不安、目標のあいまいさといった要因も重なり、行動を後回しにしてしまうことがあります。
この記事では、先延ばしが起こる心理の正体、双曲割引と関連する理論(現在バイアス・時間割引)、さらに日常で問題になる場面と対策まで分かりやすく解説します。
ぜひ最後まで読んでくださいね。
先延ばしの心理学|なぜ人はやるべきことを後回しにするのか
「やるべきことがあるのに行動できない」よくある場面
「宿題をやらなきゃと思っているのに、ついスマホをいじってしまう」
「片づけを始めるつもりが、気づいたらテレビを見ている」
こうした『やるべきことがあるのに行動できない』状況は、多くの人が経験したことがあるはずです。これは心理学的に説明できる現象です。
脳の仕組みが関係している
人間の脳は「目の前の報酬」に強く反応するようにできています。
例えば、勉強して合格するという未来の報酬より、YouTubeを見て笑えるという今すぐの報酬のほうが魅力的に感じられるのです。
これは、脳の報酬系(ドーパミンが関わる仕組み)が「短期的な快楽」を優先する性質を持っているため。つまり、先延ばしは脳のバランスの問題であり、個人の性格や根性だけでは説明できません。

先延ばしと「短期的な快楽」の関係
先延ばしが起こる典型的な流れはこうです。
- 長期的な目標(例:資格試験に合格する、ダイエットして痩せる)を持っている
- でも、その成果は「すぐには得られない」
- 目の前には「短期的な快楽」(SNS・お菓子・ゲーム)が存在する
- 脳がそちらを優先し、結局やるべきことを後回しにする
このように、人は自然と「未来のための努力」より「今すぐの快楽」に流されやすいのです。
双曲割引とは?行動経済学で分かる人間の不合理な選択

時間割引とは?未来の価値が小さく見える心理
人は「未来の報酬」を「今の報酬」より小さく見積もる傾向があります。これを時間割引と呼びます。
たとえば、「1年後に1万円をもらえる」よりも「今日9000円をもらえる」ほうが魅力的に感じることがあります。これは未来は不確実で遠いほど価値が下がると感じる心理です。
指数割引の考え方|従来の経済学モデル
従来の経済学では、未来の価値は一定の割合で割り引かれる(指数割引)と考えられてきました。
つまり、「今から1年後」「今から2年後」など、時間が進むごとにきれいなカーブで価値が減るという前提です。
しかし、実際の人間はそうは行動しません。短期になると急に「今がいい!」となり、長期になると冷静になる。このズレを説明できるのが双曲割引です。
双曲割引の基本的な意味と仕組み
時間割引の中でも、人間特有のパターンが双曲割引です。
特徴は、近い将来の報酬を急激に割り引くこと。
- 今日1000円 vs 1年後1200円 → 多くの人が「今日1000円」を選びがち
- 10年後1000円 vs 11年後1200円 → 今度は「11年後1200円」を選びやすい
このように「短期では我慢できないのに、長期では合理的な選択をする」という逆転現象が起こります。
現在バイアスとの関係|「今すぐ欲しい」に偏る心理
双曲割引の心理的な表れを現在バイアスと呼びます。
「未来の自分」より「今の自分」を優先するクセのことです。
- ダイエット中なのに「今日くらいケーキを食べてもいいや」と思ってしまう
- 将来の健康より「今の快楽」を選ぶ
これは脳の自然な反応ですが、繰り返すと「先延ばし」「浪費」「不健康」といった問題につながります。

補足:指数割引のカーブは「直線」ではなく「曲線」

✅ 指数割引のカーブは「直線」ではなく「曲線」
指数割引(Exponential Discounting)は、「時間が経つごとに一定の割合で価値を割り引く」モデルです。
数式で書くと:

(V=現在価値、A=将来の報酬、r=割引率、t=時間)
グラフにすると「なだらかに減少していく曲線」になります。
- 縦軸:価値
- 横軸:時間
時間が経つごとに、価値は一定の比率で下がる → 右下がりの曲線(原点に近いほど急、遠くなるとゆるやか)。
✅ 直線ではない理由
- 「直線」になるのは、将来の価値を「毎年100円ずつ下げる」といった等差的な減少を仮定した場合。
- 一方、指数割引は「毎年10%ずつ下げる」といった比率で減少するため、必ず曲線になります。
✅ 双曲割引との違い(ざっくりイメージ)
- 指数割引:時間が経つごとに、なだらかに下がる → 計画と行動がブレにくい
- 双曲割引:短期は急激に下がり、長期はゆるやか → 「今すぐ欲しい」が強調され、先延ばしや誘惑に弱くなる
双曲割引は普通の心理?それとも問題なのか

未来の不確実性から考える「合理的な面」
双曲割引は一見「不合理」に見えますが、必ずしも間違った判断とは限りません。
- 未来は不確実:90歳で1億円をもらうより、20歳で100万円をもらう方が確実で有利な場合もある
- 寿命や健康リスク:遠い未来より「今を楽しむ」選択が合理的になることもある
このように、双曲割引は人間がリスクを考慮している自然な心理とも言えます。
問題になるケース|ダイエット・貯金・勉強など
しかし、この心理が日常の大切な場面で働くと、困った結果を生むことがあります。
- ダイエット:健康的な未来より、目の前のケーキを選んでしまう
- 貯金・投資:老後資金より、今の買い物欲を優先してしまう
- 勉強・仕事:将来の成果より、SNSやゲームの楽しさを選んでしまう
こうした「短期の誘惑に繰り返し負ける状態」は、長期的な損失につながりやすいのです。
「時間的不整合」とは?計画と行動がずれる心理
双曲割引が引き起こす代表的な問題が時間的不整合です。
これは「計画を立てた未来の自分」と「その場の自分」が矛盾することを指します。
- 昨日:「明日からダイエットを始めよう!」
- 今日:「まあ今日くらいはいいか」
このように、未来の自分の計画を裏切ってしまうのが時間的不整合。
先延ばしの大きな原因であり、多くの人が悩むポイントです。
先延ばしを説明する有名な研究と実験
ジョージ・エインスリーの研究
双曲割引を体系的に示したのが、心理学者ジョージ・エインスリーです。
彼は、動物や人間が「すぐの小さな報酬」を「後の大きな報酬」より選びやすいことを実験で確認しました。
この研究は、「先延ばし」や「衝動的な行動」が単なる性格ではなく、普遍的な心理メカニズムだと示した大きな一歩でした。
マシュマロ実験に見る「待てない心理」
同じ頃有名になったのが、スタンフォード大学のウォルター・ミシェルによるマシュマロ実験です。
子どもに「今すぐマシュマロ1個を食べる」か「少し待てば2個もらえる」かを選ばせるというシンプルな実験。
この結果は「待てる子どもほど将来成功する」という話として広まりましたが、批判も多い研究です。
- 後の研究で、結果には家庭環境や経済状況が大きく影響していたことが指摘された
- 「待てる=意志力」だけでは説明できない
それでも、「先延ばし」「我慢」「報酬の選択」を象徴的に示す実験としてよく紹介されます。

行動経済学者セイラーの知見と現在の研究(ナッジ理論の観点から)
ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーは、双曲割引を含む「人間の不合理な意思決定」を行動経済学の観点から研究しました。
特に有名なのがナッジ理論で、人がつい先延ばしや衝動に流れてしまう傾向を前提にしながら、環境や選択肢の提示方法を工夫することで、自然に望ましい行動を取りやすくするという考え方です。
たとえば、貯金を後回しにしないように「自動積立制度」を初期設定にしておく、健康のために「サラダを一番手前に置く」などがナッジの典型例です。
こうした工夫は、双曲割引で「今すぐの快楽」を優先してしまう人間心理を補う仕組みとして有効です。
さらに近年では、脳科学の研究(ドーパミン報酬系・側坐核の働き)からも裏付けが進んでおり、心理学・経済学・神経科学が結びついて「なぜ人は先延ばししてしまうのか」がより立体的に理解されつつあります。

双曲割引を理解して先延ばしを減らす方法

コミットメント装置を使う(自動積立・先払いなど)
「未来の自分」を守るために、あえて逃げ道をなくす仕組みをつくる方法があります。これをコミットメント装置と呼びます。
- 貯金 → 自動積立にして強制的に先にお金を確保する
- 運動 → ジムの年会費を前払いして「もったいないから行こう」と思える環境をつくる
- 禁煙 → 禁煙外来や仲間との約束を利用して、途中でやめにくい状況にする
「意思の力」だけに頼らず、環境を先にデザインしておくのが効果的です。
環境を整えて「目の前の誘惑」を減らす
双曲割引は「目の前の誘惑」が強いほど働きやすくなります。
だからこそ、物理的に誘惑を減らす工夫が有効です。
- スマホ → 勉強中は別の部屋に置く/通知をオフにする
- 食べ物 → ダイエット中はお菓子を買わない/見える場所に置かない
- 買い物 → クレジットカードを使わず、現金だけ持ち歩く
「目に入るもの」を変えるだけで、驚くほど先延ばしが減ることがあります。
小さな一歩を決める|短期と長期のバランスを取る
双曲割引が生まれるのは「長期のゴールが遠すぎる」ときです。
そこで大切なのは、小さなステップに分けること。
- 勉強 → 「参考書を1ページだけ読む」と決める
- 掃除 → 「机の上だけ片づける」と始める
- ダイエット → 「ご飯を一口だけ減らす」とする
小さな一歩を踏み出せば、短期の達成感(即時報酬)も得られ、長期の成果にもつながります。
👉 まとめると、先延ばしを減らすには
- 仕組みで縛る(コミットメント装置)
- 誘惑を減らす環境づくり
- 小さな一歩で短期報酬を活かす
この3つが効果的です。
まとめ|双曲割引を知れば先延ばし対策が見えてくる
「先延ばしは普通の心理」だと理解する
まず大切なのは、先延ばしは誰にでも起こる普通の心理現象だと知ることです。
人間の脳が「今すぐの快楽」を優先するようにできている以上、双曲割引は自然な反応なのです。
大事なのは「どこで問題になるか」を知ること
ただし、日常のあらゆる場面で双曲割引が働くと、大きな損失につながります。
- 健康 → ダイエットや禁煙の失敗
- お金 → 貯金ができない、浪費が増える
- 勉強・仕事 → 締め切り間際まで先延ばし
つまり、「普通だから仕方ない」と片づけるのではなく、問題になる場面を見極めることが重要です。
心理を活かして行動を変える実践ポイント
双曲割引を理解したうえで、先延ばしを減らすための実践法があります。
- コミットメント装置で未来の自分を守る
- 環境を変えることで目の前の誘惑を減らす
- 小さな一歩から始めることで短期報酬と長期成果を両立する
こうした工夫を取り入れると、双曲割引の「落とし穴」を逆に行動の味方に変えられるのです。

