「自分の価値観って何だろう?」「本当にやりたいことがわからない」と感じることはありませんか?
ふとした瞬間に「自分が本当にやりたいことって何だろう」とモヤモヤする。そんな悩みは、実は誰もが通る“アイデンティティの揺らぎ”です。
この記事では、心理学者エリク・エリクソンの「アイデンティティ理論」をもとに、
- なぜ人は価値観や生き方に迷うのか
- 「自分の価値観」をどう見つければいいのか
- 迷いを成長につなげるヒント
を、わかりやすく解説します。
ぜひ最後まで読んでくださいね。
エリクソンのアイデンティティ理論とは?|“自分は何者か”を探す心理モデル
私たちは人生のどこかで、ふと「自分価値観ややりたいことって何だろう?」「本当に人生これでいいのかな?」と考える瞬間があります。
心理学者エリク・H・エリクソン(Erik H. Erikson)は、この問いを「アイデンティティ(自己同一性)」という概念で体系的に説明しました。
ここでは、彼の理論の基本から、青年期に訪れる“自分探し”の意味までをやさしく解説します。
エリク・エリクソンとは?心理社会的発達理論の提唱者
エリクソンは、フロイトの流れを汲む発達心理学者であり、人間の一生を8つの心理社会的発達段階で説明しました。
彼の最大の特徴は、「人の成長は一生続く」という視点を持ち込んだことです。
フロイトが幼児期までを中心に見ていたのに対し、エリクソンは「人生のすべての時期に発達課題がある」と考えました。
そのため、彼の理論は教育・心理・キャリア支援など、幅広い分野で今も引用されています。
心理社会的発達の8段階とは?人生を通して成長するプロセス
エリクソンの理論では、人生を次の8段階に分け、それぞれに乗り越えるべき心理的テーマ(発達課題)があるとされます。
| 段階 | 時期 | 発達課題(対立テーマ) | 成功時に得られる力 |
|---|---|---|---|
| 第1段階 | 乳児期 | 基本的信頼 vs 不信 | 希望(Hope) |
| 第2段階 | 幼児期 | 自律性 vs 恥・疑惑 | 意志(Will) |
| 第3段階 | 遊戯期 | 自主性 vs 罪悪感 | 目的(Purpose) |
| 第4段階 | 学童期 | 勤勉性 vs 劣等感 | 有能感(Competence) |
| 第5段階 | 青年期 | アイデンティティ vs 役割混乱 | 忠誠(Fidelity) |
| 第6段階 | 成人初期 | 親密性 vs 孤立 | 愛(Love) |
| 第7段階 | 成人中期 | 生殖性 vs 停滞 | 世話(Care) |
| 第8段階 | 老年期 | 統合 vs 絶望 | 英知(Wisdom) |
つまり、私たちは年齢に応じて「心理的な課題」を経験しながら、自我(こころの成熟)を育てていくのです。

青年期の課題「アイデンティティ vs 役割混乱」
エリクソンが特に重視したのが、第5段階=青年期(12〜18歳前後)です。
この時期は「アイデンティティ(自分は何者か)」を確立するか、「役割混乱(自分がわからない)」に陥るかという分岐点になります。
- 「どんな仕事をしたいか」
- 「自分の価値観は何か」
- 「他人からどう見られているか」
こうした問いが頭をよぎるのは、まさにこのアイデンティティ形成のプロセス。
エリクソンはこの時期を、「社会に出る前の自己探索期間=モラトリアム(猶予期)」と呼びました。
この迷いは決して悪いことではなく、“自分らしさ”を見つけるための自然な試行錯誤なのです。
「アイデンティティ危機」は成長のチャンスという視点
エリクソンは、「アイデンティティの危機(Identity Crisis)」を“成長の痛み”として肯定的に捉えました。
危機とは「崩壊」ではなく、「古い自分から新しい自分へ生まれ変わる転機」。
たとえば――
- 進路に悩む
- 周囲と比べて落ち込む
- 自分の価値観が揺らぐ
これらはすべて「新しい自分を見つけるためのきっかけ」です。
エリクソンは、人がこのプロセスを通じてより成熟した“自己”を築いていくと考えました。
💡 まとめ
エリクソンのアイデンティティ理論とは、
「人生の各段階で心理的な課題を乗り越えながら、自分らしさ=アイデンティティを形成していく」理論です。
青年期の“迷い”は、実は自分を見つけるための大切な成長プロセスなのです。
アイデンティティの意味をやさしく解説|自己同一性と自分らしさの関係
「アイデンティティ」という言葉は日常でも耳にしますが、心理学での意味はもう少し深いものです。
エリクソンが使ったこの概念は、単なる“自分らしさ”ではなく、「自分が自分であるという一貫した感覚」を指します。
ここでは、その意味をわかりやすく整理しながら、「自我」「自己概念」など似た用語との違いも見ていきましょう。
「アイデンティティ=自分らしさを一貫して感じられる感覚」
エリクソンによると、アイデンティティとは「過去・現在・未来の自分がつながっている感覚」のことです。
たとえば、
- 子どもの頃の夢や価値観が、大人になってもどこかで自分を支えている
- 昨日の自分と今日の自分が、同じ“自分”として感じられる
こうした「連続した自己感覚」があると、私たちは安心して社会の中で生きていけます。
逆に、
- 「昨日までの自分と今の自分が違う気がする」
- 「本当の自分がわからない」
という感覚が強いと、アイデンティティの混乱(identity confusion)が起こります。
この「一貫した自分らしさ」を見つけていく過程こそが、エリクソンの言うアイデンティティ形成(identity formation)です。
エリクソンの定義
アイデンティティとは、「自己の一貫性(同一性)」と「他者や社会との連続性」を感じること。
すなわち、過去の自分・現在の自分・未来の自分が“同じ自分”としてつながっている感覚である。
3つの重要な側面
- 時間的連続性(temporal continuity)
→ 「自分の過去・現在・未来が一貫している」と感じること。 - 内的一貫性(inner sameness)
→ 状況が変わっても「私は私だ」と思えること。 - 社会的承認(social recognition)
→ 自分が社会や他者からも「一貫した存在」として認められていること。
社会的承認
エリクソンが言う「社会的承認」は、社会の中で“自分という存在がどう機能しているか”を理解することです。
つまり、「他人にどう思われるかを気にする」というより、「自分が社会の中でどういう存在として認識されているかを理解し、それを自分の物語の一部にできるか」が重要なのです。
たとえば:
- 「自分は友人から“聞き上手”と思われている」
- 「職場で“丁寧に仕事をする人”として信頼されている」
これを“自分の物語の一部”として受け入れると、自分の価値や役割を客観的に把握できるようになります。
逆に、まったく他者を無視して自己定義をしようとすると、社会とのズレが大きくなり、孤立や混乱を感じやすくなります。
| 視点 | 内容 |
|---|---|
| ❌ 他人の評価に依存する | 「周りにどう思われるか」で自分の価値を決める(不安定) |
| ✅ 社会的承認を理解する | 「自分は社会の中でこう見られている」と理解し、自己物語に統合する(安定) |
自我(エゴ)や自己概念との違いを整理する
似た言葉に「自我(エゴ)」「自己概念(self-concept)」があります。
違いを簡単に整理すると次のようになります。
| 用語 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 自我(エゴ) | 「自分」という意識そのもの。現実の中で自分をコントロールする心の機能。 | 感情を抑えて冷静に判断する「自分」。 |
| 自己概念 | 「自分はこういう人間だ」という自己評価・イメージ。 | 「私は人見知りだ」「私は責任感が強い」など。 |
| アイデンティティ | 自分がどんな存在で、社会の中でどんな役割を持つのかという“自分の核”。 | 「私は教師として人を育てたい」など。 |
つまり、
- 自我:自分を保つ力(操作・判断)
- 自己概念:自分に対するイメージ(特徴の認識)
- アイデンティティ:その両方を貫く“自分らしさの中心”

「同一性」と「一貫性」がなぜ大切なのか?
アイデンティティを安定させるために欠かせないのが、「同一性」と「一貫性」です。
- 同一性(identity):
→ 「私は私である」と感じられること。
→ 過去の自分・現在の自分・未来の自分がつながっている感覚。 - 一貫性(consistency):
→ 状況が変わっても、自分の中の価値観や行動の軸がぶれないこと。
→ 「どんなときも“これが自分”だと言える基準」。
この2つがあると、他人と比べても動じにくくなり、内面的な安定感が生まれます。
逆にこの一貫性が揺らぐと、「人によって態度が変わる」「自分の軸がわからない」といった葛藤が生じます。
💡 まとめ
アイデンティティとは、「自分らしさを一貫して感じられる感覚」であり、
自我や自己概念を統合した“人生のストーリーの中心”のような存在です。
一貫性と同一性が育つことで、他人に振り回されない“安定した自分”を持てるようになります。
エリクソンの発達段階における青年期|「忠誠(Fidelity)」を育てる時期
エリクソンが最も重視したのは、人生の第5段階=青年期(おおよそ12〜18歳)です。
この時期は、「自分とは何者か?」という根源的な問いに向き合いながら、社会の中での立ち位置を模索する時期でもあります。
ここでは、青年期の心理的テーマと、そこで育まれる「忠誠(Fidelity)」という力、
そしてなぜこの時期に“迷いや反抗”が起こるのかを解説します。
青年期のテーマ「アイデンティティ vs 役割混乱」
青年期における発達課題は、「アイデンティティ(自分らしさ) vs 役割混乱(自分がわからない)」です。
これは、社会的な役割を通して「自分はどんな人間なのか」を確立できるかどうか、という心理的テーマを表しています。
たとえば――
- 進路をどうするか迷う
- 友人関係や恋愛の中で「本当の自分」が分からなくなる
- 親の期待と自分のやりたいことの間で葛藤する
こうした悩みはすべて「アイデンティティ形成」の一部です。
エリクソンはこの時期をモラトリアム(Moratorium)=心理的猶予期間と呼び、
「社会に出る前に、さまざまな価値観を試しながら自分の軸を探す時間」だと位置づけました。
つまり、迷いや揺らぎは失敗ではなく、“自分を確立するための実験期間”なのです。
忠誠(Fidelity)とは?自分と他者を大切にする力
青年期の課題を乗り越えると、「忠誠(Fidelity)」という心理的資質が育ちます。
ここでいう忠誠とは、宗教的な“忠義”ではなく、自分の価値観や信念を大切にしつつ、他者との関係も大切にする姿勢のことです。
つまり、
「自分の価値観を持ちながらも、違う考えの人とも共に生きる力」
のことを指します。
たとえば、
- 自分の考えを持ちながらも、他人を否定せずに対話できる
- 仲間や社会との約束を守りながら、自分の理想も大事にする
- SNSなどで他者と比べても、自分の信念を軸に行動できる
こうしたバランスの取れた姿勢が「忠誠(Fidelity)」です。
エリクソンは、これを成熟したアイデンティティの象徴としました。
この時期に起こる“迷い・比較・反抗”の心理的意味
青年期は、まさに「揺れる時期」です。
アイデンティティを確立しようとする過程で、迷い・比較・反抗が頻繁に起こります。
でも、これは成長の“副作用”のようなもの。
心理的には、次のような意味を持っています。
| 心の動き | 心理的な意味 |
|---|---|
| 迷う | 自分の可能性を広げるための探索。迷いは「自己理解の入口」。 |
| 比較する | 他者を通して自分の価値観を確認するプロセス。劣等感は軸を見つけるヒントになる。 |
| 反抗する | 親や社会からの独立を目指す自然なエネルギー。自立の第一歩。 |
このプロセスを避けてしまうと、
「本音を言えない」「他人に合わせすぎる」「自分の意見を持てない」といった形で、後々の人生に影響が残ります。
💡 まとめ
青年期は「自分とは何者か」を問う、重要な時期。
この時期の迷いや反抗は、アイデンティティを育てるきっかけです。
自分と他者を大切にする“忠誠(Fidelity)”を育てることで、
人は社会の中で自分らしく生きる準備が整うのです。
アイデンティティの危機とは?|「自分がわからない」心理の正体

「自分の価値観がわからない」「やりたいことが見つからない」――
そんなモヤモヤを感じたことはありませんか?
心理学ではこれを「アイデンティティの危機(identity crisis)」と呼びます。
エリクソンは、この危機を“避けるべきものではなく、成長のプロセス”として捉えました。
ここでは、アイデンティティ危機の心理的な意味と、現代社会でそれがどう現れるのか、そして乗り越えるためのヒントを紹介します。
アイデンティティ危機は“心の成長痛”
アイデンティティの危機とは、簡単に言えば「自分らしさが揺らぐ状態」です。
たとえば――
- 何をしても満たされない
- 他人の意見に左右されてしまう
- 昨日まで大事だと思っていた価値観が、突然わからなくなる
これらは、心が新しいステージに向かおうとしている“成長痛”のようなものです。
エリクソンは、「危機(crisis)」という言葉を“転機”や“選択の瞬間”という意味で使いました。
つまり、「自分が誰かを再定義しようとする自然なプロセス」であり、乗り越えることでより強い自我が育つのです。
現代のアイデンティティ危機(SNS・比較・承認欲求)
現代社会では、この「危機」がこれまで以上に起こりやすくなっています。
その大きな要因の一つが、SNSによる他者比較と承認欲求です。
- SNSで他人の成功や幸せを見て落ち込む
- 「いいね」の数で自分の価値を測ってしまう
- 自分を演出するうちに、本当の自分がわからなくなる
これらは、エリクソンのいう「役割混乱(role confusion)」の現代版です。
他者の価値観が絶えず目に入る社会では、「自分の軸」を保つことが難しくなりがちです。
しかし、その中でこそ問われるのが、
「他人がどう見るか」ではなく、「自分が何を大切にするか」
という内面的な軸です。
アイデンティティとは、比較から自由になり、内側から“これが自分だ”と言える感覚を取り戻すことでもあります。
役割混乱から抜け出すための3つの視点(内省・挑戦・受容)
アイデンティティ危機を乗り越えるには、すぐに「答え」を見つける必要はありません。
大切なのは、自分を見つめながら少しずつ方向を定めることです。
以下の3つの視点を意識してみましょう。
① 内省:自分の“本音”に気づく
- 他人の期待ではなく、「本当はどうしたい?」を問いかける。
- 書く・話す・独りになって考えるなど、内側に意識を向ける時間を持つ。
② 挑戦:小さく試してみる
- 完璧に決めなくていい。
- 少しでも「気になる」「やってみたい」と思うことを試してみることで、自分の興味や価値観が見えてくる。
③ 受容:今の“迷っている自分”を否定しない
- 「迷っている=ダメ」ではなく、「成長している途中」。
- 不安やブレを受け入れることが、アイデンティティ形成の土台になる。
💡 まとめ
アイデンティティ危機は、“心の再構築”のきっかけになります。
SNSや比較の中で迷うのは自然なこと。
大切なのは、「何者かになろうとする前に、自分の声を聞くこと」。
その迷いの中でこそ、本当の自分が少しずつ形になっていきます。
マルシアのアイデンティティ4分類|自分探しのステップを理解する

エリクソンの理論をもとに、カナダの心理学者ジェームズ・マルシア(James E. Marcia)は、青年期のアイデンティティ発達をさらに具体的に分析しました。
「どれだけ自分を探索(考え、試し)し、どれだけ自分の生き方を確立(決め)しているか」によって、青年を4つのタイプに分類したのです。
これは、現代でもキャリア教育・カウンセリングで広く使われている、非常に実用的なモデルです。
マルシアの4つのステイタス(達成/モラトリアム/早期完了/拡散)
マルシアの分類では、アイデンティティの状態を以下の4つに整理します。
| ステイタス(状態) | 特徴 | 心理的傾向 |
|---|---|---|
| ① 達成型(Achievement) | 自分で考え、探索の末に納得して生き方を決めた | 自信と安定感がある。自分の軸を持ち、他者も尊重できる。 |
| ② モラトリアム型(Moratorium) | 迷いながらも、自分を探して積極的に試している | 不安定だが成長中。悩みが多いが自己理解が進んでいる。 |
| ③ 早期完了型(Foreclosure) | 探索せず、親や他人の価値観をそのまま受け入れて決めた | 表面上は安定して見えるが、後に迷いが再発しやすい。 |
| ④ 拡散型(Diffusion) | 探索も確立もしていない。将来像が曖昧 | 無気力や混乱を感じやすく、自己肯定感が低下しやすい。 |
この4分類は、「良い・悪い」ではなく、発達のプロセスを表す地図のようなものです。
誰もが最初は「拡散型」から始まり、「モラトリアム型」を経て「達成型」に向かっていくと考えられています。
自分がどのタイプかを知ることで成長の段階が見える
自分が今どのステイタスにいるのかを知ることは、自己理解の第一歩になります。
- 「特に目標がない」「将来のことを考えるのが面倒」「なんとなく日々を過ごしている」 → 拡散型の可能性
- 「周りに流されやすい」「親や上司の期待で動いてしまう」 → 早期完了型の可能性
- 「自分探し中で不安」「何をしたいのか分からない」 → モラトリアム型の可能性
- 「自分のやりたいことを見つけ、行動している」 → 達成型に近づいている段階
ポイントは、「どの段階が良い」ではなく、今どのステップにいるのかを自覚することです。
それによって、自分に必要な方向性や課題が見えてきます。
モラトリアム期間を肯定的に捉える心理的ヒント
「モラトリアム型(迷いの時期)」は、多くの人が不安を感じる段階です。
しかし、エリクソンもマルシアも共通して、これを成長に欠かせない時間だと強調しています。
この期間にできることは次の3つです。
- さまざまな価値観に触れる
→ 本・人・経験などを通して世界を広げる。自分の“好き嫌い”が明確になる。 - 自分の感情を観察する
→ 「これをやっているとき楽しい」「これは違う」と感情の反応を記録する。 - 焦らず比べない
→ 他人より遅くてもいい。迷っている時間=自分を知る時間。
迷いを避けず、内面と向き合うことで、やがて自分にフィットする選択が見えてきます。
💡 まとめ
マルシアの理論は、エリクソンの「アイデンティティ vs 役割混乱」を“実際の行動レベル”に落とし込んだモデルです。
「今の自分はどの段階だろう?」と考えることが、すでにアイデンティティ形成の第一歩。
迷いながら前に進むことこそが、成長の証なのです。
キャリア・自己理解への応用|アイデンティティ理論を日常に活かす
エリクソンやマルシアの理論は、実は、現代のキャリア形成・自己理解・人間関係にも深く関わっています。
ここでは、アイデンティティ理論を「今の自分を整理するツール」として活かす方法を紹介します。
自分の価値観や強みを知ることで、仕事や人間関係の軸がより明確になります。
自分の価値観・強み・興味を整理する方法
アイデンティティを形成するうえでの出発点は、「自分の内側を知ること」です。
以下の3つの観点から整理すると、自己理解が深まりやすくなります。
- 価値観(Value)
→ 何を大切にしたいか。例:「自由」「挑戦」「安定」など。
→ 質問例:「お金より優先したいものは?」「理想の1日を過ごすとしたら?」 - 強み(Strength)
→ 自分が“自然にできること”“他人が感謝してくれること”。
→ 質問例:「他の人に頼られる場面は?」「時間を忘れて夢中になることは?」 - 興味(Interest)
→ 好奇心が湧くこと・つい調べたくなるテーマ。
→ 質問例:「もし誰にも見られないなら何をしたい?」「休みの日に無意識でやっていることは?」
この3つの交わる部分が、あなたの「アイデンティティの核」になります。
「職業的アイデンティティ」を育てる考え方
社会に出ると、アイデンティティは「仕事」や「役割」と深く結びつきます。
これを職業的アイデンティティ(vocational identity)と呼びます。
職業的アイデンティティとは、
「自分が社会の中でどんな価値を提供したいか」を自覚すること。
たとえば――
- 教師なら「人を育てたい」
- 看護師なら「誰かの安心を支えたい」
- エンジニアなら「より良い仕組みをつくりたい」
この“なぜその仕事を選んでいるのか”という動機が明確になると、
一時的な挫折や環境の変化にも揺れにくくなります。
💬 小さなヒント:
「何をするか」ではなく、「なぜそれをしたいのか」を言語化する。
これが職業的アイデンティティの軸を強くします。
アイデンティティ形成に役立つワーク・質問例
以下のようなワークを通して、自分のアイデンティティを整理できます。
🧭 ステップ1:自己棚卸しワーク
紙やメモに次の質問を書いてみましょう。
- 今までで「やってよかった」と思う経験は?
- 自分が尊敬する人は?どんな生き方に惹かれる?
- 人に感謝された経験は?
→ これらを分析すると、「自分が大事にしている価値観」が浮かび上がります。
💡 ステップ2:未来ビジョンを描く
- 5年後、どんな自分でいたい?
- そのとき、どんな人たちに囲まれていたい?
- そのために、今すぐできる小さな行動は?
→ 曖昧でも構いません。未来を想像すること自体が、アイデンティティを強化する行為です。
✍️ ステップ3:自分のストーリーをまとめる
「私は〇〇な価値観を大切にし、〇〇を通じて社会に貢献したい」という一文で表すと、
あなたの職業的・個人的アイデンティティが明確になります。
💡 まとめ
アイデンティティ理論は、“自分探し”を終わらせるためではなく、
「自分らしさの軸」を持ちながら変化に対応するための心理学です。
自分の価値観・強み・興味を整理し、社会の中で「どう生きたいか」を言語化することで、
あなたの人生やキャリアの方向性は自然と見えてくるでしょう。
まとめ|アイデンティティの迷いは“成長の証”
エリクソンが生涯をかけて伝えたのは、「迷いは悪いことではない」というメッセージです。
人が人生の中で感じる不安・葛藤・混乱こそが、アイデンティティを形づくる原動力なのです。
ここでは、記事全体のまとめとして、アイデンティティの本質と、これからの自分との向き合い方を整理します。
エリクソンが伝えた「迷いは生きる力になる」というメッセージ
エリクソンは、人間の発達を「8つの心理社会的発達段階」として示しました。
その中で最も重要な青年期(アイデンティティ vs 役割混乱)は、
“自分とは何者か”を探す葛藤の時期だとしています。
しかし、彼はこの「危機(crisis)」を否定的に見ていません。
むしろそれを、“自己を再構築するチャンス”と捉えました。
つまり、迷いの中でこそ、人は「本当の自分」に近づいていけるということです。
たとえ今、不安や停滞を感じていたとしても、それは“変化が始まっている証”なのです。
今の自分を受け入れながら、少しずつ再定義していく
アイデンティティは、一度決まれば終わりではありません。
仕事、恋愛、家族、老い――人生の変化とともに、何度も更新されていく「生きた物語」です。
そのために大切なのは、
- 今の自分を否定せずに受け入れること
- 「こうあるべき」よりも「これが自分だ」と言える軸を持つこと
- 変化することを恐れず、自分を再定義し続ける姿勢
たとえば、
「昔の自分はこうだったけど、今は違う」
「あのときの失敗も、今の自分をつくっている」
そう思えるとき、あなたの中でアイデンティティは静かに成長しています。
💡 まとめ
迷いや不安は、アイデンティティが揺れ動いている証拠。
それを“アイデンティティを構築するきっかけ”として受け止めましょう。
エリクソンの理論は、「自分探しを終わらせるための心理学」ではなく、
「自分を更新し続けるための心理学」なのです。



