「気持ちを抑え込んでばかりでつらい…」「頭では前向きに考えようとしても、心がついてこない…」そんなモヤモヤを感じていませんか?私たちは日常で感情を抑えることに慣れていますが、それが心の回復を妨げてしまうこともあります。
そこで注目されているのが感情焦点化療法(EFT:Emotion-Focused Therapy)です。EFTは「感情そのものに焦点を当て、体験することで変化を促す」心理療法で、うつ病や不安、トラウマ、さらには夫婦関係の改善にも効果があるとされています。
この記事では、EFTの基本的な成り立ち・他の療法との違い・理論モデル・具体的な技法・効果とエビデンス・向いている人の特徴までをわかりやすく整理しました。感情を抑えるのではなく味方にしていくヒントが見つかるはずです。
ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
感情焦点化療法(EFT)とは?基本的な概要と成り立ち

感情焦点化療法(Emotion-Focused Therapy:EFT)とは、1980年代にレスリー・グリーンバーグによって体系化された心理療法です。名前の通り、思考や行動ではなく「感情そのものに焦点を当てる」ことを中心に進めるのが特徴です。
一般的な心理療法では、考え方を変えたり行動を修正したりすることに力点を置きます。しかし、EFTでは「人間の感情は変化の原動力であり、心の適応や回復に不可欠な要素」と考えられています。つまり、感情を抑えたり避けたりするのではなく、むしろ感情をしっかり体験し、理解し、活かすことで変化が起こるとされるのです。
EFTの創始者レスリー・グリーンバーグとスー・ジョンソン
EFTは1980年代に、カナダの心理学者レスリー・グリーンバーグとスー・ジョンソンの共同研究から生まれました。
グリーンバーグは主に個人療法の領域で、ジョンソンはカップル療法の領域で発展させ、現在では臨床心理学の主要なアプローチのひとつとして世界的に広まっています。
人間性心理学・ゲシュタルト療法・認知行動療法の影響
EFTはまったくゼロから生まれたのではなく、さまざまな心理療法のエッセンスを取り入れています。
- 人間性心理学(ロジャーズの来談者中心療法)
→「共感・受容・自己一致」を重視する姿勢を継承 - ゲシュタルト療法
→「体験を重視し、感情を“今ここ”で表現する」技法を活用 - 認知行動療法(CBT)
→「問題構造の整理やセッションのプロセス管理」の要素を参考
このように、EFTは既存の理論を統合しつつ「感情」を中心に据えて発展してきました。
「感情は変化の中心」というEFTの基本的な考え方
EFTの最も重要な前提は、「感情こそが変化の中心」という考えです。
- 感情は私たちにとって「環境へのシグナル」であり、行動の方向を決めるコンパスのような役割を持つ
- 感情を避けたり押し殺したりすると、問題は解決せず、むしろ悪循環に陥ることがある
- 安全な場で感情をしっかり体験し、新しい意味づけを行うことで、回復や自己成長が促進される
たとえば「自分には価値がない」という強い悲しみを抱えている人が、セラピーを通じて「私は本当は愛される存在だ」と感じられる体験をすると、その感情が自己肯定感を高める転換点になるのです。
感情焦点化療法の特徴|他の心理療法との違い

感情焦点化療法(EFT)の大きな特徴は、「感情を直接扱う」という点にあります。
他の心理療法が「思考」や「行動」に主眼を置くのに対して、EFTは「感情そのものを変化のきっかけにする」ことを重視します。ここでは、代表的な療法と比較しながら違いを整理します。
認知行動療法(CBT)との違い:思考修正か感情体験か
- 認知行動療法(CBT)は、考え方のクセ(認知の歪み)を修正し、行動を変えることで感情を調整するアプローチです。
例:「自分はダメだ」という思考を「挑戦している最中なんだ」と置き換える。 - 感情焦点化療法(EFT)は、思考の修正よりも「今ここで感じている感情に深くアクセスし、体験すること」を重視します。
例:「自分はダメだ」と思う背後にある悲しみや無力感を感じ取り、それを安全な環境で表現する。
👉 CBTは「頭で理解して変える」アプローチ、EFTは「心で体験して変わる」アプローチと整理すると分かりやすいでしょう。

精神分析やスキーマ療法との違い
- 精神分析は、無意識や過去の体験を掘り下げて「洞察」を得ることを目指します。
- スキーマ療法は、幼少期からの「思考や感情のパターン(スキーマ)」を修正することを目的としています。
- これに対しEFTは、解釈や理論的な分析よりも「感情の体験を通じて自然に変化が起こる」ことを重視します。
つまり、精神分析やスキーマ療法が「意味づけの修正」に重きを置くのに対し、EFTは「感情体験を通して新しい意味づけが生まれる」と考えます。

EFTの独自性「感情による感情の変容」
EFTを他の療法と区別するキーワードが、「感情による感情の変容」です。
- 不適応的な感情(例:強い自己否定、無価値感)は、思考や理屈では変わりにくい
- しかし、新しい適応的な感情(例:自分は愛される存在だという実感)を体験することで、古い感情が上書きされていく
- この「感情を別の感情で変える」というプロセスは、EFTならではの特徴
👉 たとえば「怒り」で自分を守っている人が、実はその裏に「悲しみ」を抱えていることに気づき、その悲しみを受け入れると、人間関係が改善するケースがあります。これは思考修正ではなく感情体験による変化の典型例です。
感情焦点化療法の理論モデル|一次感情・二次感情・道具的感情

感情焦点化療法(EFT)では、感情を理解するうえで重要な枠組みとして「一次感情」と「二次感情」の区別があります。
この区別を知ると、自分がなぜ同じような感情に振り回されるのかが分かりやすくなり、感情との向き合い方が整理できます。
一次感情とは?本来の感情にアクセスする重要性
- 一次感情とは、その人が本来体験している「素直な感情」です。
例:- 失敗したときの「悲しみ」
- 危険を察知したときの「恐れ」
- 誰かに大切にされたときの「喜び」
- これらは人間にとって自然であり、環境にどう対応するかを教えてくれるシグナルです。
👉 EFTでは、一次感情にアクセスして表現することが心の変化につながると考えます。
二次感情とは?自己批判や恥などの防衛的な感情
- 二次感情とは、一次感情を隠したり覆い隠したりする「派生的な感情」です。
例:- 本当は「悲しい」のに、恥ずかしさから「怒り」でごまかす
- 本当は「不安」なのに、「自己批判」や「罪悪感」で覆い隠す
- 二次感情はしばしば自己防衛の役割を果たしますが、問題が長引く原因になることもあります。
👉 EFTでは、二次感情の背後にある「一次感情」に気づくことが重要とされます。
道具的感情とは?相手を操作するために使われる感情
道具的感情とは、本来の感情を体験するのではなく、相手をコントロールしたり自分の目的を達成するために表現される感情です。
例:
- 本当は「寂しい」のに、泣いて相手の注意を引こうとする
- 本当は「不安」なのに、怒りを誇張して相手を黙らせようとする
- 本当は「愛情確認」をしたいのに、すねて見せて相手の反応を試す
道具的感情はしばしば無意識の操作的な表現ですが、長期的には人間関係のすれ違いや不信感を招くことがあります。
👉 EFTでは、道具的感情を見極め、本来の「一次感情」へアクセスできるようにサポートすることが重要とされます。
感情変化の7段階モデルとは?
EFT(感情焦点化療法)では、「感情を体験することで自然に変化が起こる」という前提のもと、感情の変化プロセスを段階的に整理することがあります。これは「感情スキーマ理論」や「感情処理の連続モデル(sequential model of emotional processing)」に基づいた考え方です。
具体的には、以下のような7段階の流れで感情は変化していきます:
- 感情を避ける – 不安やつらさを回避しようとする段階
- ぼんやりと感情に気づく – 「なんとなくモヤモヤする」と漠然と感じる段階
- 感情を具体的に認識する – 「私は怒っている」「悲しい」と言語化できる段階
- 感情を受け入れる – 抑え込まずに、その感情を認められる段階
- 感情の意味を理解する – 感情がどんな背景やニーズと結びついているかを理解する段階
- 感情が変容する – 悲しみが安らぎに、不安が自己理解に変わるなど、質的な変化が起こる段階
- 新しい感情に基づいて行動が変わる – 感情変容をもとに現実の行動や人間関係が変化していく段階
このモデルは、「感情を深く体験するほど、自然に意味が整理され、行動の変化につながる」というEFTの臨床的な枠組みを端的に示しています。
感情焦点化療法の技法|具体的なアプローチ方法

感情焦点化療法(EFT)は「感情を体験して変化を促す」心理療法です。そのため、セラピーの中では感情に直接アクセスするための技法が多く用いられます。代表的なものを紹介します。
椅子技法(エンプティチェア・二椅子法)
- 椅子技法は、ゲシュタルト療法から取り入れられた有名な方法です。
- 具体的には、空の椅子に相手や自分の一部を想定して座らせ、対話するというもの。
- 「自分を責める声」と「自分を守りたい気持ち」
- 「親に対する怒り」と「愛情」
- こうした対話を通じて、抑えていた一次感情に気づき、言葉や体験として外に出すことができます。
👉 例えるなら、「心の中で押し込めていた気持ちにスポットライトを当てる舞台装置」です。
フォーカシングによる感情の気づきと整理
フォーカシングとは、身体の感覚(フェルトセンス)を手がかりに感情を見つめる方法です。
たとえば「胸が重い」「お腹が緊張している」といった感覚に注意を向け、そこに隠れている感情(不安や悲しみなど)を言葉にしていきます。
EFT(感情焦点化療法)では、このフォーカシング的なプロセスを取り入れ、自分でも気づけなかった感情を理解・整理していくことを重視します。
👉 その結果、「なんとなくモヤモヤする気持ち」を、はっきりとした感情として言葉にできるようになるのです。
セラピーセッションの一般的な流れ
EFTのセッションでは、以下のような流れで進むことが多いです。
- 安全な場を作る
→ セラピストが共感的に関わり、安心して感情を表現できる環境を整える。 - 感情にアクセスする
→ 椅子技法やフォーカシングを通じて、今ここで湧いてくる感情を深める。 - 一次感情を体験する
→ 表面的な二次感情の奥にある、本来の気持ちに触れる。 - 新しい意味づけを行う
→ 「悲しいけれど、私は大切にされる価値がある」といった新しい感情体験を得る。 - 行動の変化へつなげる
→ 感情の変化が、その人の自己理解や人間関係の改善に結びついていく。
感情焦点化療法の効果とエビデンス
心理療法においては「本当に効果があるのか?」という点が非常に重要です。感情焦点化療法(EFT)は、研究や臨床実践を通して効果が確認されており、エビデンスベース心理療法のひとつとして国際的にも注目されています。
うつ病・不安障害・トラウマに対する効果
- うつ病
EFTはうつ病の症状改善に効果があることが示されています。 - 不安障害
不安に対しては、抑えていた恐怖や悲しみと向き合うことで、不安感が和らぐケースが報告されています。 - トラウマ体験
トラウマを抱える人に対してEFTを用いた研究を行い、症状の軽減や自己理解の促進に効果があったと示しました。
👉 EFTは「過去の体験によって抑え込まれた感情」を整理し直すため、心の傷を癒すアプローチとしても有効です。
カップル療法(EFT-C)での研究成果
- スー・ジョンソン(Sue Johnson)が中心となって開発した「カップル版EFT(Emotionally Focused Couples Therapy: EFT-C)」は、夫婦関係や恋愛関係の改善に高い効果があるとされています。
- 愛着理論(ボウルビィ)をベースに、「感情を共有することで安心感と絆を強める」ことを目的としています。
👉 特に「感情を表現できない関係」「すれ違いが続く関係」において、絆を回復させる効果が期待できます。
エビデンスベース心理療法としての位置づけ
- EFTは国際的にもエビデンスに基づく心理療法として認められつつあります。
- 臨床試験や実証研究を通じて、「うつ・不安・トラウマ・夫婦関係改善」に有効であることが確認されています。
- また、単なる感情表現にとどまらず、「感情を新しい形で意味づける」点が他の療法との大きな違いであり、科学的にも支持されています。
感情焦点化療法はどんな人に向いている?
感情焦点化療法(EFT)は、すべての人に必要というわけではありませんが、特に効果を発揮しやすいタイプの人や状況があります。ここでは、その代表的なケースを紹介します。
感情をうまく扱えない・抑え込んでしまう人
- 「感情を表に出すのが苦手」
- 「怒りや悲しみを我慢してしまう」
- 「泣きたいのに泣けない」
このように感情を抑圧しがちな人は、EFTによって本来の感情(一次感情)にアクセスすることが助けになります。
👉 たとえば「怒り」ばかり表に出ていた人が、その裏にある「悲しみ」に気づくことで、心が解放されるケースがあります。
人間関係やカップル関係に悩んでいる人
- パートナーとの関係ですれ違いが多い
- 「どうせ分かってもらえない」という気持ちが強い
- 過去の関係の傷が、今の恋愛や結婚生活に影響している
カップル療法(EFT-C)は、愛着理論と感情の共有をベースにしているため、関係性の改善に大きな効果が期待されます。
👉 特に「感情を伝えられず、距離が広がってしまう関係」には有効です。
認知行動療法では物足りないと感じた人
- CBTで「思考の修正」を試したけれど、感情が変わらない
- 頭では理解できても、心がついていかない
- 「理屈ではなく気持ちを動かしたい」と感じている
EFTは、思考の修正だけでは届かない感情そのものを変化のきっかけにします。
👉 「考え方は分かっているのに、気持ちがつらいまま」という人に適しています。
まとめ
EFTは、
- 感情を抑え込みやすい人
- 人間関係やカップル関係に悩んでいる人
- CBTでは効果を実感しにくかった人
に特に向いています。
「頭で理解する」より「心で変わりたい」というニーズに応える心理療法といえるでしょう。
まとめ|感情焦点化療法で感情と向き合うことの大切さ

ここまで見てきたように、感情焦点化療法(EFT)は「感情を変化の中心」ととらえ、感情体験を通して心の回復や成長を促す心理療法です。最後に、その大切なポイントを整理します。
感情を抑えるのではなく活かすという視点
私たちは日常で「泣いてはいけない」「怒ってはいけない」と感情を抑えるように教育されることが多いです。
しかしEFTでは、感情は問題ではなく解決の糸口だと考えます。
👉 悲しみ・怒り・恐れといった感情を丁寧に体験しなおすことで、自己理解や回復が進むのです。
他の療法と比較した際のメリットと限界
- メリット
- 思考の修正では届かない「心の深い部分」に変化を起こせる
- カップル療法や人間関係の改善に高い効果
- エビデンス研究が豊富で安心して取り入れられる
- 限界
- 感情に向き合うこと自体が苦しい場合もある
- セラピストとの信頼関係が不十分だと安全に進められない
- 強いトラウマや重度の症状では、医療的サポートと併用が必要
安心して取り入れるためにできること
- 専門の臨床心理士やセラピストに相談する
- 小さなステップで感情に気づく練習をする(日記やフォーカシング)
- 認知行動療法や他のアプローチと組み合わせることで効果が高まる場合もあります。
👉 大切なのは「感情を敵にするのではなく、味方にしていく」という姿勢です。


