- SNSで強く見せようとしてしまう
- 仕事で頑張りすぎてヘトヘト
- 完璧にやらないと不安になる
- ついマウントを取ってしまう自分がイヤ
こうした“背伸び”や“無理”の裏側には、補償(弱さを別の成功で埋めようとする心理)と、
自己不一致(本音と行動のズレ)が関わっています。
この記事では、
補償とは何か/なぜ劣等感から過剰な努力が生まれるのか/どうすれば健康的な補償に変わるのかを、初心者向けにやさしく解説します。
- 防衛機制としての補償の仕組み
- アドラー心理学における「劣等感 → 成長」の正しい理解
- ロジャーズの自己不一致と過剰補償の関係
- SNS・仕事・完璧主義などの具体例
- 健康的な補償に切り替える方法
ぜひ最後まで読んでみてくださいね。
防衛機制の「補償」とは?|意味・定義をわかりやすく解説

「補償(compensation)」とは、自分の弱点や劣等感を感じたとき、その不快感を“別の成功”によって埋め合わせようとする心理の働きのことです。
フロイトが提唱した防衛機制(心がストレスから自分を守る仕組み)の一つに含まれます。
たとえば――
- 勉強が苦手 → 部活で頑張ろうとする
- 社交が苦手 → 仕事で成果を出そうとする
- 劣等感がある → 過剰に努力したり、無理して強く見せる
こうした「弱さをカバーしようとする行動」が補償です。
まずはその心理メカニズムを、初心者向けにやさしく整理していきます。
補償の基本的な心理メカニズム
補償は、心の中で次のような流れで起こります。
- 弱点・劣等感に気づく
「自分はここが苦手だ」「うまくできない」と感じる。 - 自尊心が揺らぐ(心が不安定になる)
自信が少し落ち込み、モヤっとする。 - 心がバランスを取ろうとする
不快感を埋めるために、別の分野で成功を求める。 - 成功や努力で“自分は大丈夫”と感じる
結果として、自尊心が一時的に回復する。
このように、補償は心が自動的にストレスを調整してくれる防衛反応です。
劣等感・弱点を“別の成功”で埋める仕組み
劣等感は本来悪いものではなく、「自分はもっとこうしたい」という方向性のサインでもあります。
しかし、人は弱さを直視するのがつらい生き物。
そのため、弱点と向き合う代わりに、
- 他の分野で努力する
- 成果で評価を得ようとする
- 別の得意分野でバランスを取る
といった行動で、心の不快感を埋めようとします。
これは日常的に誰もがやっていることで、適度であれば健康的な成長にもつながります。
補償と代償行動(compensatory behavior)の違い
名前が似ていますが、心理学では微妙に意味が違います。
- 補償(compensation):
心が弱点を埋めるために、自信を回復しようとする防衛機制(精神的な働き) - 代償行動(compensatory behavior):
弱さを補うために実際に行う“行動そのもの”(行動面の反応)
例:頑張りすぎる、買い物で誇示する、SNSで強く見せる など
つまり、
補償=心の働き
代償行動=実際の行動
という違いがあります。
フロイトの防衛機制における補償の位置づけ
フロイトは人間の心を、
- イド(欲求)
- エゴ(自我)
- スーパーエゴ(良心・理想)
のバランスで説明しました。
劣等感や弱さを感じると、エゴ(自我)は不安を抱えます。
その不安から自分を守るために働くのが自我防衛機制です。
補償はその中でも、
- 弱点を直接改善するのではなく、他の成功でエゴを安定させる方法
として分類されます。
フロイトの理論では、補償は「不安から自分を守るための自然な反応」として説明されています。

アドラー心理学における補償|「劣等感 → 努力 → 成長」の正しい理解

アドラー心理学では、補償は「人が成長するための自然なプロセス」として扱われます。
しかし、誤解されることも多く、「劣等感→無理な努力→疲弊」というイメージだけで語られることもあります。
実際のアドラーが語った補償はもっと柔らかく、人間の前向きな力を示す理論です。
ここでは、初心者でも誤解なく理解できるように整理していきます。
アドラーが語った「補償」と「過剰補償」の違い
アドラーは補償を2種類に分けています。
① 補償(適応的・健康的)
- 弱さに気づき、それをヒントに成長する
- 現実的な努力につながる
- 自分の価値観に沿っている
- 心がすっきりして前進できる
例:
「コミュ力が苦手 → コミュ力を改善しつつ、自分の得意な専門分野も伸ばす」
② 過剰補償(不健康)
- 劣等感を否定し、弱さを“見せまい”として無理をする
- マウント・虚勢・完璧主義と相性が強い
- 一見頑張っているように見えて心が疲れる
例:
「自信がない → SNSで強く見せる/異常な努力/攻撃性でごまかす」
アドラー心理学では、
補償=成長
過剰補償=逃避・ごまかし
と明確に区別されます。
劣等感は悪ではなく“方向性を示すサイン”
アドラーの有名な考え方のひとつに、
「劣等感は不幸ではない。成長のための刺激である」
があります。
劣等感とは本来、
- もっと良くしたい
- 今のままだと届かない
- こうなりたい未来がある
という“伸びしろのサイン”です。
つまり、
劣等感=自分の可能性を知らせてくれる方向指示器
なのです。
劣等感そのものは人間として自然な感情。
問題は「どう使うか」であり、「どう向き合うか」です。
なぜ劣等感からの努力が成長につながるのか
アドラー心理学では、努力が成長につながる理由を次のように説明します。
- 弱さに気づくことで“改善したい方向”が明確になる
- 現実的な努力が積み重なると、自尊心(自信)が回復する
- 努力の習慣そのものが自己効力感(できる感覚)を育てる
- 理想と現実の差が埋まり、健全な成長が起きる
つまり、
劣等感 → 現実的な努力 → 自己効力感 → 成長
というポジティブな循環が起こる。
補償は単なる“弱さ隠し”ではなく、
弱さを正しく扱った時に現れる、人間的な前向きの力なのです。
代表的な過剰補償の例(マウント・虚勢・完璧主義)
アドラーが重視したのは、補償が過剰になったときです。
以下は典型的な過剰補償のパターンです。
- マウントを取る
→ 自分を大きく見せて弱さを隠す - 虚勢を張る(強がり)
→ 本心では不安だが平気なふりをする - 完璧主義になる
→ “ミス=価値がない”と感じてしまう - 過剰努力・やりすぎ行動
→ 認められたい不安で動く - 攻撃性が高まる
→ 自分を守るために他者を攻撃
過剰補償のポイントは、
行動の原動力が「恐れ・不安・劣等感」になっていること。
適応的な補償と違い、
努力や行動が“自分の価値観から外れて”しまうため、心が苦しくなります。
過剰補償が起こる理由|自己不一致(ロジャーズ)との関係

過剰補償は「やりすぎ・背伸び・無理・強がり」として表れる行動ですが、その根っこには“自己不一致”という心理状態があります。
これはロジャーズ(来談者中心療法)によって整理された概念で、補償の理解に不可欠です。
ここでは、劣等感と補償が“健康”にも“不健康”にも分かれるカギとして、自己不一致の視点から深掘りします。
自己不一致とは?(価値観と行動がズレた状態)
ロジャーズが言う自己不一致(self-incongruence)とは、
- 本音(気持ち・価値観)
- 行動(やっていること)
の間にズレが生じた状態のこと。
例
- 「無理したくない」→ でも“嫌われたくなくて”頑張りすぎる
- 「強がりたくない」→ でも“弱く見られたくなくて”平気なふり
- 「自然体でいたい」→ でも完璧主義で疲れ切る
このズレが大きいほど、心にストレスがたまり、補償が“過剰補償”へと変化していきます。
劣等感を否定すると、なぜ過剰補償に走るのか
劣等感そのものは悪ではありません。
問題は、劣等感を“否定したとき”です。
人は弱さを否定すると、
本音を感じないようにする(自己防衛)
↓
その空白を埋めるために
強さ・成果・成功を過剰に求める
つまり、
弱さを認めない → 心が空白になる → 過剰補償で埋める
という流れが起きるのです。
ポイントは、
- 弱さを直視するのはつらい → 心が逃げる
- 逃げた心は必ず“別の領域”で埋め合わせようとする
これが過剰補償の本質です。
背伸び・無理・攻撃性が生まれる心理プロセス
過剰補償につながる典型的な流れは次の通りです。
- 劣等感が刺激される
「自分は劣っている」「認められたい」など。 - 劣等感を否定(自己防衛)
感じたくないため、“気づかないふり”をする。 - 心が空白を埋めようとする(補償)
成果・強さ・優越感を求め始める。 - 成果が出ないと焦り・不安・攻撃性が上昇
無意識のうちに、他人に当たったり、マウントしたりする。 - さらに“やりすぎ行動”が強化される
完璧主義、強がり、過剰努力へ…
こうした循環が進むほど、本来の自分(価値観)と行動がズレていき、自己不一致が増大してしまいます。
自己不一致を“補償で埋めようとする”悪循環
自己不一致が強くなると、心は次のように反応します。
- 「本音じゃないけど、やらなきゃ」
- 「弱さを見せられない」
- 「もっと頑張らないと自分には価値がない」
この“義務感・恐れベースの努力”が、過剰補償を加速させるのです。
悪循環のイメージ
- 劣等感
- 否定(弱さを嫌う)
- 自己不一致が発生
- 過剰補償で埋める
- 心が疲弊 → さらに劣等感が増える
- また否定 → 過剰補償へ…
劣等感を否定する限り、補償は暴走し続けます。
逆に言えば、ここを理解することで、「やりすぎ行動」の根本から変えていけるのです。

やりすぎ行動の具体例|補償と過剰補償に見られる行動パターン

補償は本来、弱点を優しくカバーする自然で健全な心の動きです。
しかし、劣等感を否定したり、自己不一致が強くなると、補償は“過剰補償”に変わり、
背伸び・強がり・やりすぎ行動として現れます。
ここでは、日常でよく見られる具体例をわかりやすく整理します。
SNSでの自慢・優秀アピール・承認欲求の高まり
SNSは、補償が最も分かりやすく表れる場所のひとつです。
- 過剰な自慢投稿
- ハイスペック/努力アピール
- “イイね”やフォロワー数への異常なこだわり
- 誰かより優位に立とうとする発言
- 他人の投稿を見て焦り、さらに誇示する
これらは多くの場合、
「弱さを見せられない」「認められたい」という内面を埋めようとする補償行動です。
本心では自信が揺らいでいるのに、
“強く見せようとする”ことで心のバランスをとっている状態です。
仕事での過剰な努力・成果への執着
仕事は「評価」「実績」といった外的な指標が見えやすいため、補償が起きやすい領域です。
よくある例は、
- いつも仕事を抱え込み、断れない
- 結果に過剰にこだわる
- 「成果が出ていないと自分に価値がない」と感じる
- 人の評価に極端に敏感
- 頑張りすぎて燃え尽きる
これらの背景には、
“無能と思われたくない”という劣等感が隠れていることが多いです。
本来の自分の体力や価値観より、
“外からの評価”で行動が決まってしまうと、補償が過剰になっていきます。
完璧主義・過集中・やりすぎ努力の典型パターン
過剰補償の象徴ともいえるのが、完璧主義です。
- ミスが許せない
- 100点以外は価値がないと思ってしまう
- 細部にこだわりすぎる
- 失敗するくらいならやらない方がいい
- 過集中になり、気づけばヘトヘト
完璧主義の裏側には、
- 「できない自分=価値がない」
- 「弱さを見せたくない」
という強烈な劣等感の否定があります。
そのため、完璧主義は気づかないうちに補償が暴走し、
不安のガス抜きとしての“やりすぎ行動”へ発展していきます。
攻撃性・マウント・虚勢行動の裏にある心理
過剰補償が最も分かりやすく表れるのが、攻撃性やマウントです。
- 他人の失敗を激しく責める
- 上から目線で話す
- 相手を見下す
- 弱みを突いて優位に立とうとする
- 怒りっぽくなる
実はこれらの多くが、
自分の弱さを見せたくない気持ちの裏返しなのです。
■ 攻撃性が生まれる流れ
- 劣等感が刺激される
- 弱さを否定して“平気なふり”をする
- 心が不安定になり攻撃的になる
- 他人を下げて、自分を保とうとする(過剰補償)
つまり攻撃性は、強さではなく、
弱さがうまく扱えないときに出る“防衛の形”なのです。
健康的な補償とは?|“自己一致的な努力”に変える方法

補償は、“正しい扱い方”ができれば、劣等感を成長のエネルギーに変える働きがあります。
鍵になるのは、ロジャーズがいう自己一致(本音と行動の調和)の状態を取り戻すこと。
ここでは、過剰補償をやめ、健康的な補償=自分を成長させる補償に変える実践的な方法をまとめます。
劣等感を“情報”として扱うコツ
劣等感は“自分の価値が低いサイン”ではありません。
本来は、「ここに伸びしろがあるよ」という方向性の情報です。
しかし、多くの人は劣等感を否定し、
「こんなの感じてはいけない」と押し込めてしまいます。
これが過剰補償の始まりです。
劣等感を健全に扱う3ステップ
- 劣等感を否定しない
「今、劣等感を感じているな」と認めるだけでOK。 - 劣等感の中身を言語化する
例:
- 何が不安?
- 欲しかった結果は?
- 本音はどうしたい? - “本当に自分が望む方向”を考える
劣等感の奥には、価値観や願望が隠れています。
劣等感は敵ではなく、行きたい方向を教えてくれるコンパスなのです。
価値観に沿った努力=自己一致をとり戻す
補償が暴走するのは、
「不安・恐れベースの努力」になっているとき。
逆に、健康的な補償は、
「価値観ベースの努力」です。
価値観ベースの努力の例
- 「できない自分が嫌だから頑張る」→×
- 「こうなりたい未来があるからやってみる」→◎
- 「評価されたいから無理する」→×
- 「自分の興味を伸ばしたい」→◎
自分の価値観と行動が一致していると、
努力そのものが楽になり、補償が健全に働きます。
嫌われ不安・欠乏感からの行動を手放す方法
過剰補償の裏側には必ず、
嫌われ不安・欠乏感(自分は足りないという感覚)
があります。
これを手放すためには、次の視点が有効です。
有効な心理学的アプローチ
- 認知の再評価
「ミス=価値ゼロ」ではなく、「ミス=学習のきっかけ」へ - 境界線(バウンダリー)を引く
他人の評価と自分の価値は別 - 小さな成功体験を積む
自己効力感(できる感覚)が強まる
これらを積み重ねることで、過剰補償の“燃料”である不安が減っていきます。
“弱さを隠す努力”を“未来を選ぶ努力”に変える
補償が暴走すると、
「弱いと思われたくない」
という理由で努力します。
しかし、健康的な補償とは、
弱さから逃げる努力 → 未来を選ぶ努力
へと切り替えることです。
変化の例
- 「下に見られたくないから頑張る」
→「自分がこうありたいからやる」 - 「失敗したら嫌われる」
→「挑戦したいからやる」
目的が変わるだけで、同じ行動でも心理的負担が大きく変わります。
ACT(心理的柔軟性)やマインドフルネスとの相性
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)は、
補償の暴走を止めるのに非常に相性がよい療法です。
ACTが役立つ理由
- 感情を“消そうとしない”
- 本音を否定せず受け入れる
- 価値観に沿った行動を選ぶ
- 気分に左右されなくなる(心理的柔軟性)
さらに、
マインドフルネス(今この瞬間に気づく技術)
は、劣等感を否定せず「ただ観察する」練習に役立ちます。
結果として、
過剰補償を止め、健康的な補償=価値観に沿った選択へと戻れる
ようになるのです。


まとめ|補償は“弱さを隠す”のではなく“弱さの扱い方”の問題
補償は、人間誰しも当たり前に使っている自然な心の調整機能です。
弱さがあるからこそ、成長しようとする力も生まれます。
問題は弱さそのものではなく、弱さとどう向き合い、どう扱うかなのです。
ここまでの内容を、重要ポイントごとにまとめて整理します。
補償は自然な反応だが、扱い方で健康/不健康が分かれる
補償は本来、
「弱さを優しくカバーし、前に進むための仕組み」です。
しかし、劣等感を否定してしまうと、
- 強く見せようとする
- 完璧を追い求める
- マウントが増える
- 無理な努力で疲れる
といった過剰補償へ変わり、心が消耗していきます。
補償の分かれ道
- 弱さを認める → 健康的な補償
- 弱さを否定する → 過剰補償
補償が悪いのではなく、
“弱さの扱い方”が補償の質を決めているのです。
劣等感・自己不一致の理解が“やりすぎ行動”を防ぐ
やりすぎ行動の裏には必ず、
劣等感 → 否認 → 自己不一致
という構造があります。
- 劣等感は方向性のサイン
- 否定すると心が暴走する
- 自己不一致が生まれると、やりすぎ行動になりやすい
この流れを理解するだけでも、
自分の行動の意味が分かり、過剰補償に気づきやすくなります。
過剰補償は心のSOSでもあるため、
「自分は今、無理してない?」
「本音と違う方向に走ってない?」
と立ち止まることが大切です。
価値観ベースの選択が自己一致を取り戻す鍵
補償を“健康な補償”へ変える鍵は、
価値観ベースで行動を選ぶことです。
- 評価されたいから頑張る → ×
- 自分が大切にしたい価値のために動く → ◎
同じ努力でも、
“外向きの理由”なのか“内向きの理由”なのかで、
心理的負担がまったく違います。
健康的な補償の合言葉
「弱さから逃げるのではなく、未来を選ぶ」
この視点に立つだけで、補償は“逃避”ではなく、
“自己成長の力”に変わっていきます。

