ストレスを感じたとき、ついスマホに逃げたり、面倒なことを後回しにしてしまったりしませんか?
「やらなきゃ」と思っているのに手が止まる…そんな自分にモヤモヤしている方も多いはずです。
心理学ではこうした行動を「回避型コーピング(=ストレスから一時的に逃げる対処法)」と呼びます。短期的には心を守る効果がありますが、使いすぎると不安や問題の悪化につながることも。
この記事では、回避型コーピングの意味や理論、日常での具体例、メリットとデメリットをわかりやすく解説し、さらに抜け出す方法や克服のコツも紹介します。
「逃げ癖を直したい」「でも心も守りたい」そんなあなたに役立つ内容です。ぜひ最後まで読んでくださいね。
回避型コーピングとは?基本的な意味と特徴
私たちは日常生活でストレスに直面したとき、さまざまな方法で心を守ろうとします。心理学ではこれを「コーピング(coping)」=ストレス対処法と呼びます。
ストレス対処法としてのコーピングの全体像
コーピングには大きく3つの方向性があります。
- 問題焦点型コーピング:ストレスの原因そのものを解決しようとする(例:仕事の段取りを工夫する)
- 情動焦点型コーピング:気持ちを落ち着けることを優先する(例:友人に愚痴を聞いてもらう)
- 回避型コーピング:問題や感情から一時的に距離を取る(例:ゲームやSNSに没頭する)
このように、コーピングは「問題に立ち向かう」だけではなく「避ける」という選択肢も含まれています。
回避型コーピングの定義(逃げ・先延ばし・気晴らし)
回避型コーピングとは、その名の通り「ストレスや問題から逃げる」ことに重点を置いた方法です。具体的には:
- 嫌な課題を先延ばしにする
- 不安を感じる場面から距離を取る
- 気晴らしに没頭して一時的に忘れる
といった行動です。短期的には「ホッとする」「気が楽になる」というメリットがありますが、問題そのものは残ったままなので長期的には負担になることがあります。
他のコーピング(問題焦点型・情動焦点型)との違い
- 問題焦点型が「解決に向けて動く」
- 情動焦点型が「気持ちを整える」
のに対し、 - 回避型は「問題そのものや気持ちから目をそらす」点が特徴です。
イメージとしては、
- 問題焦点型=火を消す
- 情動焦点型=火に当たって温まる
- 回避型=火を見ないように別の部屋へ行く
といった違いがあります。


心理学で解説される回避型コーピングの理論

回避型コーピングは、心理学の研究でも長年注目されてきたテーマです。単なる「逃げ」ではなく、いくつかの理論やモデルによって位置づけられています。ここでは代表的な理論を整理します。
ラザルス&フォルクマンのストレスコーピング理論
心理学者リチャード・ラザルスとスーザン・フォルクマンは1980年代に「ストレスコーピング理論」を提唱しました。
この理論では、ストレス対処を大きく2つに分類しています。
- 問題焦点型コーピング:問題を解決する行動に出る
- 情動焦点型コーピング:感情を調整して気持ちを落ち着ける
この中で、「避ける」「考えないようにする」行動は情動焦点型に含まれる一部の戦略とされ、回避型コーピングはここで位置づけられることが多いです。
パーカー&エンドラーの3分類モデル(課題焦点・情動焦点・回避型)
その後、パーカーとエンドラーはさらに細かく分類し、
- 課題焦点型コーピング(問題解決を目指す)
- 情動焦点型コーピング(感情を整える)
- 回避型コーピング(現実から目をそらす)
という3分類モデルを提案しました。
防衛機制(逃避・否認・抑圧)との関係
さらに、精神分析学の防衛機制とも関連があります。
- 逃避:問題から距離を置く
- 否認:問題の存在を認めない
- 抑圧:不安な気持ちを無意識に押し込める
これらは無意識レベルで働く心理的な仕組みで、回避型コーピングと非常に近い行動パターンです。心理学的に見ると、回避は心を守る自然な働きの一つとも言えます。



回避型コーピングの原因|人が逃げを選んでしまう心理とは
回避型コーピングは、心を守るために生じる自然な反応です。ただし、その背景にはいくつかの心理的・環境的な要因があります。ここでは代表的な原因を整理してみましょう。
不安や恐怖が強いとき
人は不安や恐怖が高まると、「直面するともっとつらい」と感じやすくなります。そのため、あえて見ないふりをしたり、行動を止めたりして心を守ろうとします。
例:試験の結果を見るのが怖くて、成績発表を確認できない。
欲求不満やストレスが続くとき
欲求が満たされない状態(欲求不満)や、強いストレスが長引くと「もう耐えられない」と感じます。その結果、解決するよりも一時的に逃げる行動に走りがちです。
例:仕事のプレッシャーが続き、家に帰ると飲酒やゲームに没頭してしまう。
自己効力感の低さ
自己効力感とは「自分ならできる」という感覚のこと。これが低いと「どうせ無理」と思い、挑戦するより避ける方が楽に感じてしまいます。
例:プレゼンの自信がなく、準備を後回しにしてしまう。
完璧主義
完璧を求めるあまり、「失敗するくらいならやらないほうがマシ」と考えてしまうことがあります。挑戦そのものを避けるのも回避型コーピングの一例です。
例:100点を取れないと思うと、課題に手をつけない。
過去の学習経験
「逃げたら楽になった」という過去の体験は、脳に強く記憶されます。その結果、同じ状況になると「また逃げれば楽になる」と条件反射的に回避行動をとってしまいます。
例:嫌な人間関係から距離を置いたら楽になり、それ以降も人との関わりを避ける。
サポート不足の環境
周囲の支えが乏しいと「一人で抱えるしかない」と感じ、解決よりも逃げることを選びやすくなります。相談できる人がいないと、回避行動は強化されやすいのです。
例:職場で助けを求められず、タスクを後回しにしてしまう。
回避型コーピングの具体例|日常でよくあるパターン

回避型コーピングは、特別な状況だけでなく日常のあちこちで見られる行動です。ここでは代表的な例を紹介します。
スマホやSNSに逃げる
嫌な気分になったときに、ついスマホをいじることはありませんか?
- SNSのタイムラインを延々とスクロールする
- 動画を見続ける
- ネットサーフィンで気を紛らわせる
これらは典型的な「現実から目をそらす」回避型コーピングです。短時間ならリフレッシュになりますが、長時間続けると逆に自己嫌悪や不安を増やすことがあります。
飲酒・過食・ゲームなどの依存行動
ストレスを感じたときにお酒や食べ物に頼るのも回避型の一つです。
- 「嫌なことがあったから今日は飲もう」
- 「イライラしてつい食べ過ぎた」
また、ゲームにのめり込むことで一時的に嫌なことを忘れるケースもあります。これらは短期的に安心を与えてくれますが、過度に頼ると依存や健康問題につながりかねません。
仕事や課題を先延ばしする
「やらなきゃ」と分かっていながら、つい後回しにするのも回避型コーピングです。
- レポートや宿題を締め切り直前まで放置する
- 重要なメールを後で返そうとして結局忘れる
これは一見「ただの怠け」と思われがちですが、心理学的にはストレスを避ける行動=回避型コーピングの一種です。
睡眠過多や無気力として表れるケース
強いストレスがかかると、寝すぎたり動けなくなることもあります。
- 休みの日に一日中ベッドから出られない
- 何もする気が起きず、だらだら過ごしてしまう
これも「心を守るための回避」ですが、長引くとうつ状態につながる可能性があるため注意が必要です。
回避型コーピングのメリットとデメリット

回避型コーピングは「悪いこと」と思われがちですが、必ずしもそうではありません。実は短期的なメリットと長期的なデメリットの両面があるのです。ここで整理してみましょう。
短期的な効果(心を守る・気持ちを落ち着ける)
- 嫌な気分から一時的に解放される
- 気持ちを切り替えることで冷静さを取り戻せる
- 強いストレスに直面したとき「パンク」を防ぐ役割がある
例えるなら、「心にとってのシートベルト」のようなものです。事故そのものは防げませんが、衝撃を和らげる働きがあります。
長期的なリスク(問題の悪化・不安や抑うつの増加)
- 問題解決を先延ばしにするため、課題がさらに大きくなる
- 逃げ癖がついてしまい、自信や自己効力感を下げる
- 不安や抑うつ感を強め、悪循環に陥りやすくなる
つまり、「心の休養」になる一方で、過剰に頼るとストレスを増やす原因になってしまうのです。
「休養のための回避」と「現実逃避の回避」の違い
大切なのは、回避の使い方です。
- 良い回避(休養のため):散歩をして気分を落ち着け、あとで課題に戻れる
- 悪い回避(過度の現実逃避):問題から完全に目をそらし続け、結局何もしない
このように「休むための回避」なら役立ちますが、「逃げ続ける回避」は落とし穴になります。
回避型コーピングから抜け出す方法

「逃げてしまうクセをどうにかしたい」と感じる人も多いはずです。心理学的には、回避型コーピングを完全になくす必要はなく、必要な場面でうまく使い、依存しすぎないようにすることが大切です。ここでは実践的な方法を紹介します。
認知行動療法(CBT)による思考の整理
認知行動療法(CBT)は、ストレスや不安に対処するための代表的な心理療法です。
- 「逃げたい」と思ったときに、頭の中でどんな考えが浮かんでいるかを書き出す
- 「本当に避ける必要があるか?」を客観的に確認する
- 代わりにできる小さな行動を選ぶ
こうしたステップを踏むことで、無意識の「回避のクセ」を意識的に調整できます。

マインドフルネスで現実に向き合う練習
マインドフルネスとは、「今この瞬間に意識を向ける」練習法です。
呼吸に集中したり、体の感覚を観察することで、
- 逃げたくなる気持ちを無理に抑えるのではなく「気づく」
- 問題を大きく膨らませずに受け止める
といった力がつきます。逃げずに現実を見られるようになる、非常に有効なアプローチです。

小さな一歩を踏み出す
「大きな課題に向き合う」のは負担が大きすぎます。そこで効果的なのが、小さな一歩から始める方法です。
- 仕事を5分だけ取りかかる
- 書類を机に出すだけ
- メールのタイトルだけ読む
といった「行動のきっかけ」を作ることで、避けたい気持ちを少しずつ乗り越えられます。
「冷却期間」を上手に使う:悪い回避と良い回避の見分け方
重要なのは「逃げ方の質」を見極めることです。
- 良い回避:散歩・音楽・趣味などで気持ちを整え、その後に課題へ戻れる
- 悪い回避:スマホやお酒で問題を忘れ、結局手をつけないまま時間が過ぎる
つまり「少し休んでから向き合う」のは有効ですが、「避け続ける」のは落とし穴になります。
回避型コーピングをやらなくなるための方法
欲求不満耐性を高める
人は「欲しいのに手に入らない」「思い通りにいかない」という状況に置かれると、欲求不満を感じます。これが強くなると、「イライラを紛らわせたい」という気持ちから、スマホやお酒などの回避行動に走りやすくなります。つまり、欲求不満に弱いと回避型コーピングを選びやすいのです。
では、どうすれば欲求不満に強くなれるのでしょうか?
小さな我慢の練習をする
例:すぐに欲しいものを買わず、1日だけ待ってみる。SNSをチェックしたい衝動を10分だけ我慢する。
👉 「少しの不満なら耐えられる」という感覚が育ちます。
長期的なメリットを意識する
「今の我慢は未来の自分のためになる」と考えることで、目先の快楽より大きな成果を選びやすくなります。
例:お金をすぐ使わずに貯金する、ダイエット中に甘い物を控える。
小さな成功体験を積む
「待てた」「我慢できた」という体験を繰り返すと、自信がつき、自然と欲求不満に強くなります。

ストレス耐性を高める
強いストレスを感じると、人は「これ以上は無理」と思い、逃げることで心を守ろうとします。つまり、ストレスに弱いほど回避型コーピングを選びやすいのです。そこで重要になるのが、ストレス耐性=困難やプレッシャーに耐え、立ち直る力を高めることです。
ストレス耐性を鍛える方法には、次のようなものがあります。
生活習慣を整える
睡眠・食事・運動が乱れていると、心の余裕がなくなり、ストレスに押しつぶされやすくなります。体を整えることは心の防波堤になります。
小さなストレス経験を積む
あえて小さな困難に挑戦して成功体験を積むことで、「自分はストレスに耐えられる」という感覚が育ちます。
例:少し苦手な人に話しかける、簡単な新しい作業に挑戦する。
サポートを活用する
周囲に相談できる人がいるだけで「一人で抱えるストレス」が減ります。支援を受けながら進めることで、ストレスに強くなれます。
レジリエンスを意識する
レジリエンスとは「逆境からの回復力」。失敗や挫折を「学び」と捉える練習をすることで、ストレスを乗り越えやすくなります。

👉 欲求不満耐性が「衝動をコントロールする力」だとすれば、
ストレス耐性は「逆境に押しつぶされない力」。
両方を鍛えることで、「逃げなくても大丈夫」と思える心の余裕が生まれ、自然と回避型コーピングを選ばなくなります。
まとめ|回避型コーピングは「悪」ではなくバランスが大事
ここまで見てきたように、回避型コーピングにはプラス面とマイナス面の両方があります。大切なのは「完全になくす」ことではなく、うまく付き合うバランス感覚です。
一時的には心を守るが、使いすぎると逆効果
回避型コーピングは、強いストレスに直面したときに心の防波堤のような役割を果たします。
ただし、長く頼りすぎると「問題が大きくなる」「不安や抑うつを強める」といった逆効果につながります。
「逃げ癖」を克服するには意識的な行動が必要
大切なのは、
- 逃げていることに気づく
- 小さな行動に切り替える
- 一歩ずつ現実に戻る
という意識的な工夫です。これによって「逃げ癖」から徐々に抜け出せます。
上手に活用しながらストレスに強い心を育てよう
- 一時的な気晴らしや休養として「良い回避」を活用する
- 問題そのものに戻るきっかけを意識的に作る
- 認知行動療法やマインドフルネスを取り入れてバランスを整える
こうした工夫を重ねることで、**ストレスに強いレジリエンス(回復力)**を育てられます。


