「もしかして、相手を“試す”ような行動をしてしまっていませんか？」
連絡が少し遅いだけで不安になったり、わざと冷たくして反応を見たり…。そんな行動は「試し行動」と呼ばれ、特に不安型愛着スタイル（相手との関係が壊れることへの不安が強いタイプ）の人に多く見られます。
この記事では、
- 不安型愛着スタイルと試し行動の特徴
- 背景にある心理（見捨てられ不安・自己肯定感の低さ など）
- 有名な心理学研究による裏付け
- 信頼関係を築くための実践的な対処法
をわかりやすく解説します。専門用語もやさしく説明するので、心理学に詳しくない方でも安心です。
試し行動に頼らず、もっと自然で安心できる関係を築くヒントが見つかるはずです。ぜひ最後まで読んでくださいね。
不安型愛着スタイルと試し行動の基本を理解する
不安型愛着スタイルとは？特徴と行動パターン
不安型愛着スタイルとは、心理学の「愛着理論」における愛着スタイルの1つで、相手との関係が壊れることへの不安が強いタイプです。
子どもの頃、親との関係で愛情を十分に感じられなかったり、愛情が不安定に与えられたりすると形成されやすいといわれます。
特徴としては…
- 相手の愛情や気持ちを常に確認したくなる
- 連絡が遅いと「嫌われたかも」と不安になる
- 距離が近づくと安心するが、少し離れると強い不安を感じる
例えるなら、「スマホの充電が少しでも減るとすぐに充電器を探す」ような状態。
関係のエネルギーが減っていないか、常に気になってしまうのです。
試し行動とは何か？心理学での定義
試し行動とは、「相手が自分をどれだけ大切に思っているか」を確かめるために、わざと反応を引き出そうとする行動のこと。
心理学では、愛情確認行動や確認行動とも呼ばれます。
たとえば…
- わざと冷たくする → 相手が心配してくれるか試す
- 他の異性と仲良くする → 嫉妬してくれるか試す
- 返信を遅らせる → 自分を追ってきてくれるか確認する
この行動の背景には、「愛情を失うかもしれない不安」があります。
つまり、安心したい気持ちが裏目に出てしまうのです。
恋愛・職場・友人関係で現れる試し行動の例
試し行動は恋愛だけでなく、職場や友人関係でも起こります。
恋愛での例
- 「別れる」と口にして反応を見る
- SNSに意味深な投稿をして様子をうかがう
職場での例
- あえて報告や相談を遅らせ、相手がフォローするか確認する
- わざと不満をほのめかして反応を見る
友人関係での例
- 誘いを断っても何度も誘ってくれるか試す
- 自分から連絡せず、相手から来るか様子を見る
どの場面でも共通するのは、「愛情や信頼を試すための行動」だという点です。
しかし、この方法は相手との信頼を強めるどころか、逆に壊すリスクもあります。
不安型愛着スタイルの試し行動に見られる共通の心理
見捨てられ不安と愛情確認欲求
不安型愛着スタイルの試し行動の根底には、見捨てられ不安があります。
これは「大切な人に離れられるのではないか」という強い恐れで、恋愛・友人関係・職場など、あらゆる人間関係に影響します。
この不安を和らげるために、愛情確認欲求が働きます。
- 「本当に自分を大切に思ってくれているのか？」
- 「自分は必要とされているのか？」
こうした疑問を解消するために、試し行動が生まれるのです。
しかし、この方法は一時的に安心できても、長期的には関係をこじらせやすい特徴があります。
自己肯定感の低さと依存傾向
不安型愛着スタイルの人は、自己肯定感が低い傾向があります。
「自分は価値がある」という感覚が弱いと、他者の反応や評価に依存してしまいがちです。
結果として、依存傾向が強まり、相手の言動に一喜一憂する生活になります。
- 相手が優しいと安心する
- 少し距離を置かれると不安でいっぱいになる
このように「安心感の供給源を相手に完全に依存する」状態では、試し行動が増えてしまいます。
距離の操作や嫉妬誘発などの行動パターン
試し行動には、いくつか典型的なパターンがあります。
1. 距離の操作
- 急に冷たくする、返信を遅らせるなど
- 「相手が追ってくるか」を確認するための行動
2. 嫉妬誘発
- 他の異性と仲良くする、SNSで異性との交流を見せる
- 相手の嫉妬心を引き出して愛情を確かめる
3. 間接的アピール
- 意味深な発言や投稿で、相手が気にするかを探る
- 拒絶への恐れから、直接的な愛情表現の要求ができないため、遠回しな形で試す。
これらはいずれも「愛されているかどうかの証拠集め」ですが、相手からすると心理的負担が大きく、信頼関係を損なう原因になりやすいのです。
心理的背景を解き明かす有名理論と研究
愛着理論（ボウルビィ）と不安型愛着スタイル
愛着理論は、心理学者ジョン・ボウルビィによって提唱された理論で、人は生涯を通して「安心できる他者（安全基地）」を求めるとされます。
幼少期に親や養育者から一貫した愛情を受けられなかった場合、不安型愛着スタイルや回避型愛着スタイルといったパターンが形成されることがあります。
不安型愛着スタイルの人は、愛情を失うことへの警戒心が強く、相手の気持ちを常に確認したくなります。
その結果、試し行動が頻発しやすくなります。
ストレンジ・シチュエーション法（エインスワース）
メアリー・エインスワースは、ボウルビィの理論を実証的に裏付けるために「ストレンジ・シチュエーション法」という観察実験を行いました。
幼児と母親を短時間引き離し、その後の再会時の反応を観察する方法です。
不安型愛着スタイルの子どもは、
- 母親がいなくなると強く泣き叫ぶ
- 再会すると抱きつくが、同時に怒ったり叩いたりする
という「安心したいけど怒りもある」複雑な行動を見せます。
これは、大人の試し行動にも通じるパターンです。
ハーロウのサル実験が示す「安心感」の重要性
心理学者ハリー・ハーロウは、赤ちゃんザルに2種類の人工の母ザルを用意しました。
1つは針金で作られ、ミルクの哺乳瓶が付いている母ザル。
もう1つはミルクは与えないが、やわらかい布で覆われた母ザルです。
実験の結果、赤ちゃんザルはミルクを飲むとき以外は布の母ザルにしがみつき、安心感を求めました。
この実験は、安心感こそが愛着関係の土台であることを示しています。
不安型愛着スタイルの試し行動は、この安心感を手に入れるための不器用な方法とも言えます。
ゴットマンの「破局の4騎士」と関係悪化のサイン
夫婦関係の研究で有名なジョン・ゴットマン博士は、関係を壊す4つの行動パターンを「破局の4騎士」と名付けました。
- 批判
- 防御
- 侮辱
- 逃避
試し行動は、批判や侮辱といった形で現れることがあり、相手の防御や逃避を誘発します。
これが繰り返されると、関係は悪循環に陥りやすくなります。
不安型愛着スタイルの試し行動が引き起こす問題点
信頼関係が壊れるリスク
試し行動は、本人にとっては「愛情を確かめるための手段」ですが、相手からすると信頼を揺さぶられる行為です。
- 「なぜそんなことをするの？」という不信感
- 「信じられていない」という失望感
この積み重ねによって、安心して関われる関係が崩れていきます。
信頼は一度壊れると修復に時間がかかるため、試し行動を繰り返すことは大きなリスクになります。
自己充足予言で本当に関係が悪化する流れ
心理学でいう自己充足予言（Self-fulfilling prophecy）とは、「こうなるに違いない」と思い込むことで、その結果を自分で引き寄せてしまう現象です。
不安型愛着スタイルの人は「きっと嫌われる」と考えやすく、その不安から試し行動をしてしまいます。
結果、相手は距離を置きたくなり、本当に関係が悪化してしまう――まさに自己充足予言の典型です。
相手の感情を疲弊させる要因になる理由
試し行動は、相手にとって感情的な負担になります。
- 常に気持ちを試されているプレッシャー
- 予想外の行動に振り回されるストレス
- 「愛情を証明し続けなければならない」という疲労感
このような状態が続くと、相手は「もう関係を続けるのがしんどい」と感じやすくなります。
つまり、試し行動は安心を得るためにやっているのに、その安心の源を失う原因にもなりうるのです。
不安型愛着スタイルの試し行動を減らすための対処法
感情を言葉にして伝えるトレーニング
試し行動の代わりに、自分の気持ちを素直に言葉で伝える練習をしましょう。
たとえば…
- 「連絡が遅いと不安になる」と正直に伝える
- 「こうしてくれると安心できる」とリクエストする
最初は勇気がいりますが、直接的なコミュニケーションは相手との信頼を深める一番の近道です。
ポイントは「責める言い方」ではなく、「私はこう感じた」というIメッセージで伝えることです。
自分で安心感を作るセルフケア習慣
不安型愛着スタイルの人は、安心感の源を相手に依存しがちです。
そこで、自分で自分を落ち着ける習慣を持つことが大切です。
例：
- 深呼吸や瞑想で心を整える
- 好きな音楽を聴く
- 友人との時間や趣味で気持ちを満たす
「安心は相手からもらうものだけではない」と体験的に理解すると、試し行動の頻度が減っていきます。
間欠強化に振り回されないための距離感の保ち方
間欠強化とは、「たまに得られるご褒美が強い依存を生む」心理現象です。
相手が時々優しくしてくれると、それを求めて不安が増し、試し行動につながります。
対策は、自分の行動パターンを客観視すること。
- 「この不安は本当に現実的なものか？」
- 「相手の行動を100％コントロールできない」と理解する
これにより、相手に依存しすぎない健全な距離感が作れます。
恋愛・人間関係で信頼を築く会話術
信頼関係は、一度の会話ではなく日々のやり取りの積み重ねで育ちます。
効果的な方法：
- 相手の話を最後まで聞く（傾聴）
- 感謝の気持ちを具体的に言葉にする
- 小さな約束を守る
こうした積み重ねが「試さなくても安心できる関係」をつくります。
専門的なサポートや改善アプローチ
カウンセリングやEFT（感情焦点型療法）の活用
不安型愛着スタイルの根本的な改善には、心理的なサポートが有効です。
特に効果が期待できるのがカウンセリングやEFT（Emotionally Focused Therapy：感情焦点型療法）です。
EFTは、カナダの心理学者スー・ジョンソンが開発したカップル療法で、お互いが安全基地になれるよう感情のやり取りを改善することを目的としています。
個人のカウンセリングでも、感情の整理や「不安を言葉にする練習」ができ、試し行動に頼らない関係構築をサポートしてくれます。
ブレネー・ブラウンが提唱する「脆弱性の受容」
米国の研究者ブレネー・ブラウンは、「脆弱性（vulnerability）」を受け入れることの重要性を説いています。
脆弱性とは、弱みや不安、恥ずかしい気持ちなどを隠さず表すこと。
不安型愛着スタイルの人は、弱みを見せる代わりに試し行動で相手を探る傾向があります。
しかし、脆弱性を素直に表現することこそが、深い信頼関係を生むと彼女は言います。
「試す」のではなく「さらけ出す」ことが、関係を変えるきっかけになります。
依存から自立へ移行するための心理的ステップ
試し行動を減らすには、相手への依存度を下げ、心理的な自立を進めることが不可欠です。
ステップ例：
- 自己認識：自分が不安型愛着スタイルであること、試し行動をしてしまう状況を理解する
- 感情の自己調整：不安が高まったときに、まず自分で落ち着ける方法を使う
- 自分の価値を他者評価に依存しない：趣味・仕事・友人関係など、複数の安心源を持つ
- 相手との健全な境界線を作る
このプロセスを少しずつ繰り返すことで、「試さなくても安心できる自分」に近づいていきます。
まとめ｜試し行動を減らすことが信頼関係の第一歩
不安型愛着スタイルでも信頼関係は築ける
不安型愛着スタイルは「相手とのつながりを強く求める気持ち」が根本にあります。
その気持ちは決して悪いものではなく、信頼関係を大切にしたいという思いの裏返しです。
しかし、試し行動は相手を不安にさせ、信頼を削る原因にもなります。
愛情確認は「試す」形ではなく、「言葉」や「行動」で直接伝える方法に変えることで、関係は大きく変わります。
不安型愛着スタイルでも、安心と信頼を土台にした関係は十分に築くことができます。
今日からできる小さな一歩
試し行動をやめるには、大きな変化よりも小さな一歩が大切です。
今日からできること：
- 不安になったとき、すぐ行動せず深呼吸を3回する
- 相手にしてほしいことを、試すのではなく言葉でお願いしてみる
- 自分の感情や不安を日記やメモに書き出して整理する
- 1日の終わりに「今日よかったこと」を3つ挙げて自己肯定感を育てる
これらを続けることで、「試さなくても安心できる自分」へと少しずつ変わっていけます。
信頼関係は一度に作られるものではなく、日々の小さな積み重ねで形づくられます。
