「選択肢が多すぎて、なかなか決められない…」
そんな経験、ありませんか?
買い物・ランチ・動画・仕事のタスク――
“どれを選ぶか”を考えるたびに、どっと疲れる。
それは脳が限界まで情報処理しているサインです。
この記事では、心理学の「ヒックの法則」をもとに、
「なぜ選択肢が多いと迷うのか」「なぜ決断に疲れるのか」をわかりやすく解説します。
さらに、決断疲れを減らすための実践的な方法(仕事・生活・デジタル環境の整え方)もご紹介。
ぜひ最後まで読んでくださいね。
ヒックの法則とは?|選択肢が多いと迷う心理の基本原理

「選択肢が多いと、なかなか決められない…」
誰もが一度は感じたことのあるこの“迷い”には、ちゃんとした心理学的な理由があります。
それを説明するのが、ヒックの法則(Hick’s Law)です。
ヒックの法則の定義と数式(T = a + b log₂(n + 1))をやさしく解説
ヒックの法則とは、
「選択肢が増えるほど、人は決断に時間がかかる」という心理学の法則です。
1952年、心理学者ウィリアム・エドモンド・ヒックとレイ・ハイマンが発表しました。
彼らは、選択肢の数と反応時間の関係を数式で表しました。

各パラメータの意味:
- T:反応(意思決定)にかかる時間
- a:反応動作にかかる基礎時間(定数項)
- b:情報処理速度を表す定数(個人や条件で異なる)
- n:選択肢の数
この数式の意味は、
選択肢が増えるごとに反応時間が“対数的(ゆるやかに)増加する”ということ。
たとえば、選択肢が2倍になっても、単純に時間が2倍になるわけではありません。
しかし、選択肢が多くなるほど情報を比較・評価する負担が増え、
結果的に「決断までの時間」が長くなってしまうのです。
ヒックとハイマンの実験|選択肢が増えると反応時間が伸びる理由
実験では、被験者にランプやボタンをいくつか並べ、
点灯したランプに対応するボタンを押すよう指示しました。
その結果――
ボタンの数(選択肢)が多くなるほど、反応するまでの時間が長くなったのです。
これは、私たちの脳が情報を処理するスピードには限界があることを示しています。
脳は、選択肢ごとに
- 何を意味するのか
- どれが最も正しいのか
- 間違うとどうなるのか
を瞬時に比較・検討しており、その分だけ認知的負荷(考えるためのエネルギー)が増えるのです。

日常に潜むヒックの法則の例(買い物・メニュー・SNSなど)
ヒックの法則は、特別な実験室の話ではありません。
私たちの日常生活にも、いたるところで働いています。
身近な例を挙げると…
- 🛒 コンビニやスーパーでのおにぎり選び
→ 種類が10種類あると、「どれが一番おいしいか」「コスパがいいか」を比較して迷いやすい。 - 🍝 レストランのメニュー
→ 選択肢が多すぎると、「失敗したくない」「他の方がよかったかも」と考えて疲れる。 - 📱 動画配信サービスやSNS
→ 見たい動画を探しているうちに、気づけば30分経っている…。
これはまさに「選択肢が多すぎて脳が処理しきれない」状態です。
こうした状況はすべて、ヒックの法則が示す「選択肢の増加=決断の遅延」の典型例。
そしてこの小さな「迷いの積み重ね」が、やがて“決断疲れ(decision fatigue)”へとつながっていきます。

要するに、ヒックの法則とは
「選択肢が増えるほど、脳の処理が追いつかず、決断が難しくなる」
という心理の仕組みです。
この法則を知ることで、私たちは「迷う自分」を責めるのではなく、
“脳の自然な反応”として理解し、対策をとることができるようになります。
なぜ選択肢が多いと疲れるのか?“決断疲れ”の心理メカニズム

「どれにしよう…」「やっぱりこっち?」と、決断を繰り返しているうちにどっと疲れる――。
この“決断疲れ(decision fatigue)”は、単なる気のせいではありません。
脳科学的にも、選択のたびにエネルギーが消耗することが分かっています。
ここでは、その仕組みを心理学の視点から整理してみましょう。
脳の情報処理負荷と意思決定コストの関係(認知負荷理論との関連)
私たちの脳には、一度に処理できる情報量に限界があります。
これを説明するのが、教育心理学で有名な「認知負荷理論(Cognitive Load Theory)」です。
認知負荷理論では、脳の処理能力を「ワーキングメモリ」と呼びます。
このワーキングメモリが扱える情報はおよそ4〜7個が限界。
それを超えると、情報の整理や比較が追いつかなくなり、思考が混乱します。
つまり、選択肢が多いということは、それだけ脳が抱える“情報処理の負担”が増えるということ。
結果として、
- 判断に時間がかかる
- 判断に自信が持てない
- 判断後に「これでよかったのか」と悩む
という状態になりやすくなります。
選択の多さは自由を与えるように見えて、実は脳を縛る鎖にもなりうるのです。

選択を重ねるほど意志力が消耗する|バウマイスターの実験
社会心理学者ロイ・バウマイスター(Roy Baumeister)は、
人間の意志力(willpower)は有限なリソースであると提唱しました。
たとえば、買い物やメール返信、SNSでの「いいね」判断――
こうした小さな選択を何度も繰り返すだけで、脳のエネルギーが消耗します。
バウマイスターの実験では、
「チョコレートを食べたいけど我慢する」「問題を解く」などの意思的な行動を繰り返した被験者は、
その後に判断力や集中力が著しく低下することが確認されました。
これが「意志力の消耗(ego depletion)」です。
つまり、選択肢が多い環境では、選ぶたびに脳が小さく疲弊し、
最後には「どうでもいいや」と感じてしまう。
これが、いわゆる“決断疲れ”の正体なのです。

ヒックの法則と「選択のパラドックス」の違いと関係

ヒックの法則が「選択肢が多いと決断が遅くなる」ことを示しているのに対し、
「選択のパラドックス(The Paradox of Choice)」は、
選択肢が多いと満足できなくなるという心理を説明します。
この2つは、似ているようで違う“選択の罠”を指しています。
ここではその違いと、私たちがなぜ迷い続けてしまうのかを整理していきましょう。
ヒックの法則=「時間がかかる」法則、パラドックス=「満足できない」心理
まず、2つの理論の違いを簡単にまとめると次の通りです。
観点 | ヒックの法則 | 選択のパラドックス |
---|---|---|
提唱者 | ウィリアム・ヒック(1952) | バリー・シュワルツ(Barry Schwartz, 2004) |
焦点 | 決断までの時間 | 決断後の満足度 |
現象 | 選択肢が増えると判断が遅くなる | 選択肢が増えると満足できなくなる |
心理的影響 | 認知負荷・反応時間の増加 | 後悔・不安・比較疲れ |
対策 | 選択肢を減らして判断を早くする | 「十分に良い選択」に満足する思考へ |
ヒックの法則は“決断までの負担”、
選択のパラドックスは“決断した後の後悔や迷い”を扱っている点がポイントです。
つまり、選択肢が多すぎると私たちは――
「決めるのに時間がかかる(ヒック)」
→ 「やっと決めても満足できない(パラドックス)」
という二重のストレスを受けるのです。
選択肢が多いすぎると「後悔」「不安」「比較疲れ」が増える仕組み
アメリカの心理学者バリー・シュワルツは、著書『The Paradox of Choice(選択のパラドックス)』の中で、
「自由が多すぎることが人を不幸にする」と述べました。
選択肢が多いと、人は次のような心理に陥ります。
- 後悔(regret):「あっちの方がよかったかも」と考え続ける
- 不安(anxiety):「自分の選択は正しかったのか?」と確信が持てない
- 比較疲れ(comparison fatigue):「他の人の選択が気になる」
これらはすべて、満足度を下げる要因です。
たとえば、スマホを買うときに10社の機種を比較し、やっと決めたのに――
「次のモデルが出る」「他社の方が安い」と聞いて後悔する。
この“終わらない比較”が、心をすり減らしていくのです。

心理学的に見る“ちょうどいい選択肢の数”とは?
では、選択肢は少なければ少ないほどいいのでしょうか?
実はそうではありません。
心理学では、「選択肢の多さ」と「満足度」の関係は逆U字型になるとされています。
- 選択肢が少なすぎる → 選べる自由がなく、不満が増える
- 選択肢が多すぎる → 比較が増え、迷いや後悔が増える
- 中間の数 → 最も満足度が高く、心理的に楽
つまり、重要なのは「数を減らす」ことではなく、
“自分が比較しやすい範囲に絞る”ことです。
たとえば、
- ネットショッピングでは候補を3〜5件に絞ってから比較する
- メニューが多いレストランでは「和・洋・中」などカテゴリーで選ぶ
といった“選択の整理術”が有効です。
ヒックの法則が教えてくれるのは、「迷いの時間」を減らす方法。
選択のパラドックスが教えてくれるのは、「後悔の感情」を減らす方法。
この2つを理解しておくと、
「迷って疲れる」「決めてもモヤモヤする」といった選択のストレスを、
減らすことができます。
ヒックの法則の実践例|UXデザイン・仕事・日常への応用

ヒックの法則は、心理学だけでなく、デザイン・仕事・日常生活などあらゆる場面に活かせます。
ここでは、「選択肢を減らすことで判断をスムーズにする」ための実践例を紹介します。
意識して取り入れるだけで、驚くほど脳の負担が軽くなり、行動が早くなるはずです。
UXデザインでの応用例|メニュー数を絞ると離脱率が下がる理由
Webサイトやアプリのユーザー体験(UX)においても、ヒックの法則は重要な指針です。
メニュー項目やボタンが多すぎると、ユーザーは「どこを押せばいいのか?」と迷い、
結果的に離脱してしまいます。
たとえば、
- 10個のリンクが並んだサイトよりも、3〜5個に絞ったメニューの方がクリック率が高い
- ECサイトでは、「おすすめ商品」や「人気カテゴリ」を先に提示すると購買率が上がる
これは、ユーザーに“考えさせないデザイン”を提供することが目的です。
Googleのシンプルなトップページや、Appleの直感的なUIが分かりやすい例でしょう。
UXデザインの基本原則:「選択肢を減らすことは、自由を奪うのではなく行動を促す」

タスク管理やToDo整理に活かす「選択肢を減らす思考」
ヒックの法則は、仕事の効率化にも応用できます。
1日の中でやるべきタスクが多いほど、「どれから手をつけるか」でエネルギーを消耗します。
その結果、手をつける前に疲れてしまう――これはまさに決断疲れの罠です。
おすすめは、次の3ステップで「選択肢を減らす仕組み」を作ることです。
① 前日のうちに「翌朝やるタスク」を3つに絞る
→ 朝から迷わず行動でき、集中力を節約できる。
② 優先順位を「緊急・重要・その他」で区分する
→ 判断の基準をテンプレ化し、迷いを減らす。
③ タスクを視覚化して、終わったら消す
→ 達成感が積み重なり、次の判断へのモチベーションになる。
つまり、仕事でもプライベートでも、
「考える前にやる仕組み」を作ることが脳の省エネにつながるのです。
スマホやSNSで情報過多を防ぐ“デジタル断捨離”のコツ
現代人の“選択疲れ”の最大要因が、スマホとSNSです。
通知、アプリ、ニュース、動画、メッセージ――常に選択を迫られる環境にあります。
ヒックの法則の観点から言えば、
「情報の選択肢が多すぎる=常に決断を繰り返している」状態です。
その結果、
- 集中できない
- やる気が出ない
- なんとなく疲れている
という“デジタル疲れ”が起こります。
これを防ぐには、次のようなデジタル断捨離のステップが効果的です。
- 📱必要のない通知をオフにする(「選ばされる」機会を減らす)
- 📂 アプリをカテゴリごとにフォルダ化(判断の整理)
- 💤 寝る1時間前はスマホを触らない(脳をクールダウン)
これらはすべて、ヒックの法則の実践です。
「選択を減らす=思考を整える」という考え方を持つだけで、
デジタル環境のストレスは格段に減ります。
まとめ|選択を減らすことが、脳と心の自由を取り戻す第一歩

ここまで見てきたように、ヒックの法則は「選択肢が多いと決断に時間がかかる」という単純な話にとどまりません。
それは、現代社会の「情報過多」「迷い」「疲れ」に直結する、生き方の法則でもあります。
最後に、この理論を日常でどう活かすかを整理してみましょう。
「減らす=諦める」ではなく「本質に集中する」考え方
「選択肢を減らす」というと、なんだか自由を失うことのように感じる人もいます。
しかし本質はまったく逆です。
ヒックの法則が教えてくれるのは、
“選択を減らすことが、自分の大切なことに“集中すること”につながる
という考え方です。
たとえば――
- 服を少なくしても、「今日何を着るか」で悩まなくなる
- SNSのフォローを減らすと、「誰かと比べる」時間が減る
- メニューを固定すれば、「健康的な食事」を維持しやすくなる
つまり、「減らす」とは諦めることではなく、迷いを削って自分の大切な選択に集中すること。
それが結果的に、心の自由や満足度を高める近道になるのです。
ヒックの法則を理解すれば、迷いが減り行動力が上がる
ヒックの法則を生活に取り入れると、
「行動までのスピード」が格段に上がります。
人は、行動するまでにエネルギーを消耗しがちですが、
選択肢を整理すれば、その初動エネルギー(フリクション)を減らせます。
たとえば、
- 朝のルーティンを決める(迷わない朝)
- 作業手順をテンプレート化する(考えない仕組み)
- SNSの閲覧時間を制限する(情報のノイズを減らす)
こうした習慣はすべて「決断の自動化」です。
今日からできる小さな“決断疲れ予防”習慣(例:選択肢のテンプレ化)
最後に、誰でも今日から始められる“決断疲れ”を防ぐ方法を紹介します。
すべて「選択肢を減らす」「考える回数を減らす」ための工夫です。
🧠 小さな習慣で迷いを減らす実践例
- 朝のルールを決める(例:朝食メニュー・着る服を固定)
- 買い物リストを事前に作る(現場で迷わない)
- 「選ばない時間」をつくる(夜はスマホを見ない)
- 「迷ったらこれ」という基準を1つ持つ(思考ショートカット)
- 1日を終える前に「今日の決断」を3つだけ振り返る(意思決定の整理)
これらはどれも、ヒックの法則に基づく「思考のダイエット」です。
情報も選択も減らすほど、脳のリソースは“本当にやりたいこと”に使えるようになります。



