この記事では、「ヒーローズ・ジャーニー」という視点から多くの物語に共通する傾向を解説します。
ヒーローズ・ジャーニーとは、物語の型ではなく、人が変化・成長するときにたどりやすい共通パターンのことです。
さらに、物語によく出てくるキャラクターのタイプとして、ユング心理学の原型(アーキタイプ)などもご紹介。
ぜひ最後まで読んでくださいね。
ジョーゼフ・キャンベルのヒーローズ・ジャーニーとは?

ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)とは、
神話学者 ジョーゼフ・キャンベル が、世界中の神話・宗教・民話を比較研究する中で見いだした
「英雄の物語に共通して現れる基本構造」のことです。
キャンベルは著書
『千の顔を持つ英雄(The Hero with a Thousand Faces)』の中で、
世界中の神話は、細部は違っても
本質的には同じ流れ(モノミス)を持っている
と述べました。
この共通構造が、後に
ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)
と呼ばれるようになります。
ヒーローズ・ジャーニーの基本的な流れ
キャンベルが示した英雄の旅は、大まかに言うと次の流れです。
- 日常の世界
主人公は、まだ何も起きていない普通の世界にいる - 冒険への呼びかけ
何らかの事件や使命が主人公を非日常へ誘う - 試練と困難
敵・壁・恐怖・喪失など、数々の試練に直面する - 変容(内面的な変化)
大きな危機や象徴的な「死と再生」を経験する - 帰還
以前とは違う存在として、元の世界に戻ってくる
重要なのは、
「内面的な変化」が中心にある点です。
クリストファー・ボグラー
クリストファー・ボグラーは、神話学者 ジョーゼフ・キャンベル が提唱した
ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)の理論を、
- 映画や物語創作に使いやすく
- 現場で理解・共有しやすい形に
整理・再構成した人物として知られています。
なぜ神話は時代を超えて残り続けているのか
何千年も前に作られた神話が、
今でも映画・漫画・小説の土台になっている理由はシンプルです。
人間の悩みや成長の仕方が、昔も今も大きく変わっていないから。
- 恐れ
- 迷い
- 挑戦
- 喪失
- 変化
これらは時代や文化が変わっても、人間なら誰もが経験します。
だからこそ、
現代の私たちが読んでも
どこか自分の人生と重ねてしまうのです。
なぜ世界中の神話や物語は似ているのか

文化や宗教が違っても共通点が生まれる理由
たとえば、世界各地の神話や物語を見てみると、
- 主人公が日常を離れて冒険に出る
- 強敵や試練にぶつかる
- 一度は絶望的な状況に落ちる
- 何かを得て、元の世界に戻る
といった流れが何度も登場します。
理由はシンプルで、
人間が生きる中で経験する“重要な出来事”が共通しているからです。
- 成長するとき
- 立場が変わるとき
- 価値観が壊れるとき
人はどの社会でも、似た心理状態を通ります。
集合的無意識とは?ヒーローズ・ジャーニーを心理学で説明する理論

集合的無意識とは?
集合的無意識とは、
人類が生まれつき共有している「共通の心のパターン」のこと。
この理論を提唱したのが
カール・グスタフ・ユング
という心理学者です。
ユングは、人の心を大きく分けて次のように考えました。
- 意識:今、自分で考えていること
- 個人的無意識:忘れている記憶や抑え込んだ感情
- 集合的無意識:人類共通の、もっと深い心の層
この中で重要なのが、最後の集合的無意識です。
個人の無意識を超えた「人類共通の心の層」
集合的無意識は、
「過去の経験の集まり」ではありません。
イメージとしては、
- 心の奥深くにある共通の設計図
- 人間なら誰でも持っている初期設定
のようなものです。
だから、
- 異なる文化
- 異なる時代
- 異なる宗教
で育った人たちが、
似た神話・似た物語・似た象徴を自然に生み出してしまう。
これは、
人類に共通する心の構造が、結果として似た物語を生み出す
と考えるのが、集合的無意識です。
夢分析と神話研究から生まれた考え方
ユングがこの理論にたどり着いたきっかけは、
夢の研究でした。
患者の夢を分析していくと、
- 見たことがないはずの神話的な象徴
- 教えられていないはずの物語パターン
が、繰り返し現れたのです。
さらに神話を研究すると、
- 夢に出てくる象徴
- 神話に登場するモチーフ
が、驚くほど重なっていることに気づきました。
ここからユングは、
神話とは、
集合的無意識が“物語の形で表に出たもの”
だと考えるようになります。
原型(アーキタイプ)が神話や物語に現れる理由

前の見出しで説明した集合的無意識には、
もう一つ重要な要素があります。
それが 原型(アーキタイプ) です。
英雄・影(シャドウ)・賢者などの原型
原型(アーキタイプ)とは、
人類共通で持っている「心の役割パターン」のことです。
ユングは、集合的無意識の中に
次のような原型が存在すると考えました。
- 英雄(ヒーロー)
困難に立ち向かい、変化していく存在 - 影(シャドウ)
恐れ・弱さ・怒りなど、見たくない自分 - 賢者(メンター)
知恵や視点を与える導き手 - 母・父の原型
守る存在、あるいは乗り越えるべき存在
これらは
「物語のキャラ設定」ではなく、
人間の心の中で実際に働いている役割だと考えられています。
アーキタイプとスター・ウォーズ
アーキタイプが一般層まで一気に有名になった代表例が『スター・ウォーズ』です。
なぜスター・ウォーズで有名になったのか
『スター・ウォーズ』を作った ジョージ・ルーカス は、
制作時に ジョーゼフ・キャンベル の神話研究を強く参考にしています。
その結果、物語の中に
ユング心理学のアーキタイプ(原型) が、非常に分かりやすい形で配置されました。
スター・ウォーズに登場する代表的アーキタイプ
初心者にも一瞬で分かる対応関係はこれです。
- ルーク・スカイウォーカー
→ 英雄(未熟な若者が成長する原型) - オビ=ワン・ケノービ
→ 賢者・メンター(導き手) - ダース・ベイダー
→ 影(シャドウ:主人公が向き合う闇) - ハン・ソロ
→ トリックスター/仲間(変化を促す存在) - フォース
→ 目に見えない力・普遍的原理(集合的無意識的な象徴)
これらは「キャラ設定の偶然」ではなく、
人間の心が自然に理解しやすい役割(アーキタイプ)として配置されています。
なぜ同じようなキャラクターの葛藤が何度も登場するのか
映画や漫画を見ていて、
「このキャラの葛藤、どこかで見たことあるな…」
と感じたことはないでしょうか。
それは、似たような心理状態になりやすいからです。
人の心は、
- 成長するとき
- 恐れと向き合うとき
- 価値観が変わるとき
似た心理状態になります。
そのとき心の中では、
- 英雄が前に出て
- 影が抵抗し
- 賢者がヒントを与える
という流れが起きやすいのです。
原型はキャラ設定ではなく「心の働き」
ここが一番重要なポイントです。
原型は、
❌「こういうキャラを出せばウケる」
ではなく
⭕「人の心が、そういう形で動きやすい」
という話です。
たとえば、
- 敵キャラに強い嫌悪を感じる
- 主人公に自分を重ねてしまう
- 賢者の言葉がやけに刺さる
こうした反応は、
自分の心の中の原型が反応している状態です。
ヒーローズ・ジャーニーと心的外傷後成長(PTG:Post-Traumatic Growth)
ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)は、
大きな試練を経験し、以前とは違う自分として戻ってくる物語構造です。
この流れは、心理学でいう 心的外傷後成長(PTG:Post-Traumatic Growth) と
とてもよく重なります。
心的外傷後成長(PTG)とは、
事故・病気・喪失・挫折といった強いストレス体験をきっかけに、
人が心理的に成長する現象を指します。
ポイントは、
「トラウマを乗り越えて元に戻る」ことではありません。
トラウマを通して、価値観や生き方そのものが変化する点にあります。
このプロセスをヒーローズ・ジャーニーに当てはめると、
次のように対応します。
- 日常の世界
これまで当たり前だと思っていた人生の状態 - 試練・危機
事故、喪失、失敗、裏切りなどの強烈な体験 - 象徴的な死
「以前の自分」が通用しなくなる状態 - 再生・帰還
価値観や人間関係の見方が変わった新しい自分として生き直す
PTGは、まさに
ヒーローズ・ジャーニーの「死と再生」の段階を、現実の人生で体験すること
と言えます。
重要なのは、
PTGは「必ず起こる成長」ではない点です。
- 苦しみの中で意味を見いだせたとき
- 自分なりに体験を言葉で整理できたとき
- 他者との関係が再構築されたとき
こうした条件が重なったときに、
人は少しずつ変化していきます。
これは、
英雄が試練の最中に「答え」を与えられるのではなく、
もがきながら何かを掴み取る
という神話の描写とよく似ています。
ヒーローズ・ジャーニーが多くの人の心を打つ理由は、
それが単なるフィクションではなく、
人が現実で体験する「壊れて、組み直されるプロセス」を象徴的に描いている
からでしょう。
なぜ人は成長物語に強く惹かれるのか

ヒーローズ・ジャーニーは
心の構造や人生の変化と深く結びついた「成長物語」です。
では、なぜ人は、
これほどまでに 成長の物語 に強く惹かれるのでしょうか?
成長物語は安心感と意味を与える
人は、不安な状況に置かれると
「この出来事には意味があるのか?」
を無意識に探します。
成長物語は、
- 苦しみが“無駄ではない”
- 今の混乱は“途中段階”
- この先に“変化がある”
という見通しを与えてくれます。
これは単なるポジティブ思考ではなく、
心が混乱に耐えるための理解の枠組みです。
変化の物語が心に刺さる心理的理由
人は「成功そのもの」よりも、
変化のプロセスに強く反応します。
なぜなら、
- 変化=自分にも起こり得る
- 完成された存在より、途中の存在に共感しやすい
からです。
物語の主人公が、
- 最初から強い
- 最初から完成している
場合、心はあまり動きません。
でも、
- 迷う
- 失敗する
- 怖がる
姿を見ると、
自分の内面と重なり始めます。
「変わったこと」に価値を感じる理由
人は、
「自分がどう変わったか」
に強い価値を感じます。
神話の主人公が最後に持ち帰るのも、
- 財宝そのもの
- 名声
ではなく、
- 新しい視点
- 成長した人格
- 世界の理解
であることが多い。
これは人生でも同じで、
振り返ったときに残るのは、
- 何を得たか
- どれだけ変わったか
という感覚です。
だから人は、
成長物語の中に
どこか自分の人生と重なるものを感じてしまうのです。
まとめ

ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)とは、
神話学者 ジョーゼフ・キャンベル が、世界中の神話や伝承を比較研究する中で見いだした、
人が変化・成長していくときに共通して現れやすい流れを表した考え方です。
そこでは、
- 平凡な日常から始まり
- 何らかのきっかけで非日常に踏み込み
- 試練や混乱、喪失を経験し
- 以前とは違う自分として戻ってくる
という構造が、繰り返し描かれます。
この流れは、
映画や小説といった物語の中だけでなく、
現実の人生における挫折や転機、再出発のプロセスとも重なります。
ヒーローズ・ジャーニーが多くの人に響くのは、
迷い、失い、変わっていく過程そのものを描いているからでしょう。

